『幕末の先駆者 赤松小三郎 議会政治を提唱した兵学者』|安藤優一郎|平凡社新書
歴史家、安藤優一郎さんの歴史読み物、『幕末の先駆者 赤松小三郎 議会政治を提唱した兵学者』(平凡社新書)をご恵贈いただきました。
歴史タレントとしてマルチな活躍をする、小栗さくらさんの本格幕末小説集『余烈(よれつ)』に収録された短編小説「波紋」を読んで以来、明治維新を前に非業の死を遂げた兵学者赤松小三郎に興味を持ちました。
赤松小三郎は、上田藩の下級藩士として生まれながら、江戸遊学を経験して、数学や蘭学、兵学などの学問を身につけ、いち早く英語とイギリス式兵制の重要性をみいだす。幕末の混乱のなか、幕府宛建白書の提出、京都での開塾など、藩を超えた活動を開始するが、大政奉還を前に、「幕奸」とみなされ、薩摩藩士によって殺害される。
洋学者・兵学者でありながら、議会政治の重要性を解いた、知られざる時代の先覚者の生涯を追う!(本書カバー袖の紹介文より)
小三郎は、薩摩藩で藩士に兵学を教えながら、「幕薩一和」を唱えたことから、薩摩藩の討幕派によって、「幕奸」とみなされ、「人きり半次郎」と呼ばれた薩摩藩監察中村半次郎らによって暗殺されました。
慶応三年(一八六七)一一月一五日、土佐藩の坂本龍馬は明治維新をみることなく凶刃にたおれたが、約二ヵ月半前の九月三日に同じ京都で非業の死を遂げた憂国の志士がいた。信州上田藩士の赤松小三郎という人物である。
(『幕末の先駆者 赤松小三郎 議会政治を提唱した兵学者』P.8より)
洋学者で兵学者の小三郎は、龍馬よりも早く、議会制度の導入に象徴される新国家構想を唱えました。選挙で選ばれた議員から構成される議政局の決議は政府たる朝廷よりも勝ると規定した、その構想は同時代の先覚者の誰よりも先進的で、かつ具体的な内容をともなっていました。
本書は激動の幕末を駆け抜けた上田藩士赤松小三郎の生涯を追いかけることで、知られざる時代の先覚者で憂国の志士が果たした歴史的役割を解き明かすものです。
第一章、第二章では、下級藩士の家に生まれ、世に出るために学問に励み、国事に奔走する志士として活動する原点となる修業時代を押さえます。
第三章で自分の運命を変えることになる英語と英式兵制を学びはじめる過程に焦点を当て、第四章で京都で兵学塾を開き、薩摩藩の依頼にこたえて英式兵制に基づく調練をした背景を解き明かします。
第五章で憂国の志士として幕府や雄藩のあいだを奔走する姿を描き、第六章では、薩摩藩の猜疑心を受けて志半ばに非業の死を遂げた小三郎の最期に迫ります。
そして、エピローグでは、小三郎の生涯を総括し、その歴史的役割を検証します。
勝海舟と福沢諭吉に関する著書をもち、幕末明治を独自の視点からわかりやすく解き明かしてきた著者ならではの歴史読み物。
知られざる先駆者である上田藩士赤松小三郎の生涯を通じて、歴史教科書には記述されない幕末史に触れられる好著です。
幕末の先駆者 赤松小三郎 議会政治を提唱した兵学者
安藤優一郎
平凡社 平凡社新書
2022年8月10日 初版第1刷
装幀:菊地信義
●目次
プロローグ――幕末史から消された憂国の志士
第一章 上田藩に生まれる――学問に励む日々
第一節 上田藩松平家の歩み
第二節 小三郎誕生
第二章 勝海舟との出会い――長崎での日々
第一節 勝への入門
第二節 長崎で得た知識と人脈
第三節 咸臨丸に乗れなかった小三郎と乗れた福沢諭吉
第三章 英式兵制と横浜居留地――内戦の勃発
第一節 上田での雌伏の日々
第二節 憂国の士への転身と攘夷運動の高まり
第三節 イギリス軍人との交流
第四章 幕末政局の舞台・上方に向かう――薩摩藩の接近
第一節 長州再征をめぐる幕府と薩摩藩の対立
第二節 『英国歩兵練法』の刊行と福沢諭吉
第三節 京都での開塾
第四節 薩摩藩の招聘
第五章 憂国の志士として奔走する――雄藩の合従連衡
第一節 京都にとどまる小三郎の決意
第二節 四侯会議に込めた薩摩藩の狙い
第三節 議会制度採用の建白
第六章 非業の死――小三郎が夢見た新国家
第一節 諸藩の暗闘に巻き込まれる
第二節 内戦回避のため奔走
第三節 小三郎の死
第四節 明治新政府に受け継がれた小三郎の思い
エピローグ 小三郎の遺産
赤松小三郎関連年表
参考文献
本文199ページ
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『幕末の先駆者 赤松小三郎 議会政治を提唱した兵学者』(安藤優一郎・平凡社新書)
『余烈』(小栗さくら・講談社)