『北の御番所 反骨日録【五】 かどわかし』|芝村凉也|双葉文庫
芝村凉也(しばむらりょうや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『北の御番所 反骨日録【五】 かどわかし』(双葉文庫)紹介します。
新刊の帯に入った、「3」の文字が目に飛び込んできます。
そう、時代小説SHOWの「2021年時代小説ベスト10 [文庫書き下ろし部門]の第3位に推した、「北の御番所 反骨日録」シリーズの最新刊です。
北町奉行所の用部屋手附同心の裄沢広二郎(ゆきざわこうじろう)を主人公に、奉行所内外の出来事や人間関係を描く、「奉行所小説」の要素が他の追随を許さない面白さで知的好奇心を満たしてくれるシリーズとなっています。
用部屋手附童心の裄沢広二郎は、僅か半年のうちに敵対した与力を三人もお役から飛ばしたことで、北町奉行所の同僚から気を遣われる存在となっていた。そんな中、日本橋本石町の呉服屋・鷲巣屋の番頭が裄沢の屋敷を訪れ、小判入りの菓子折を置いていった。見世への出入りを求めてきた鷲巣屋の願いを裄沢はにべもなく断るが、それでも諦めない見世の主は卑劣な手を使い――。裄沢の身辺を探る鷲巣屋の目的は一体何なのか、そしてその正体とは!? 書き下ろし痛快時代小説、人気シリーズ第五弾!
(『北の御番所 反骨日録【五】 かどわかし』カバー裏の紹介文より)
用部屋手附同心とは、お奉行の秘書官的な立場の内与力(うちよりき)の下僚として、補助をつとめる内勤のお役目です。
裄沢は、己の身に降りかかってくる火の粉を払おうとしただけとはいいながらも、前任の内与力二人の左遷に深く関わっていました。さらには、町奉行所の中で威勢の強い吟味方与力の一人も、裄沢からの指弾を受けてお役を退いたという「前科」がありました。
奉行所の中では、僅か半年のうちに、三人の与力を飛ばしたことで、裄沢に対して腫れ物に触るように扱ったり、掌返しの態度を取ったりする者ばかりで、居心地の悪さを感じて妙な緊張を覚えました。
一日のつとめを終えて己の組屋敷に帰った裄沢を待ち構えていたものは、二重底に小判十両が並べて置かれた菓子折りでした。
日本橋本石町の呉服屋鷲巣屋の二番番頭が持ってきた音物とのことだが、どこの商家とも直接関わりのない内勤の裄沢には全く心当たりがないものでした。
翌日、非番だった裄沢は鷲巣屋を訪れますが、主も二番番頭も不在で三番番頭に音物を返して帰りました。
後刻、裄沢の組屋敷を鷲巣屋金右衛門が訪れて、家の前で非礼の数々を詫びて、見世への出入りを求めました。
「そなたの見世を訪れたのはただ置いていかれた物を返したかっただけ。用が済んだのでそのまま帰ったということだ。別段謝ってもらう必要はないし。起こってもおらぬ。
ともかく、わざわざ謝罪に来てくれたことは受け止めた。それではの」
淡々と言い置いて背を向ける。
(『北の御番所 反骨日録【五】 かどわかし』 P.53より)
裄沢は、内役(内勤)の同心と知己を得たところで、何かの役に立つことはない、己に注ぎ込んでも無駄金になるだけと言いたいことだけ言って立ち去りました。
「まあ、ちょいと様子見かね。評判を聞いてお近づきになろうとしてたのに、たかが同心と侮って軽く見てましたかねぇ。
どんなお人でも何を好み、どこに隙があるのか――じっくり探ってから、次の手立てを考えましょうかね」
(『北の御番所 反骨日録【五】 かどわかし』 P.54より)
最初は、「北町奉行所に一風変わった同心がいて周囲が戦々恐々としているようだ」という噂を耳にして、ちょいと手懐ければ面白いかもと思った程度だった金右衛門でしたが、権力にも金にも靡かない裄沢に大いに興味を惹かれました。
金右衛門は、裄沢にさらなる接触を試みていきます。
それは、思いがけない手段に出ました……。
身近に危機が迫るなかで、裄沢はどのようにそれを乗り越えるのでしょうか。
また、御番所のありようを外から変えたいという金右衛門の正体は?
かどわかしという大きな事件に発展した捕物劇は、派手な剣戟アクションこそはありませんが、洞察力抜群の裄沢の解決への手立てが冴えわたり、ある種の爽快感をともなっていて、豊かな読み味をもたらしています。
このシリーズがますます好きになり、誰かにおすすめしたくなりました。
北の御番所 反骨日録【五】 かどわかし
芝村凉也
双葉社・双葉文庫
2022年8月7日第1刷発行
カバーデザイン・イラスト:遠藤拓人
●目次
第一話 日々平穏
第二話 かどわかし
第三話 秋霜
本文317ページ
文庫書き下ろし。
■Amazon.co.jp
『北の御番所 反骨日録【一】 春の雪』(芝村凉也・双葉文庫)(第1作)
『北の御番所 反骨日録【二】 雷鳴』(芝村凉也・双葉文庫)(第2作)
『北の御番所 反骨日録【三】 蝉時雨』(芝村凉也・双葉文庫)(第3作)
『北の御番所 反骨日録【四】 狐祝言』(芝村凉也・双葉文庫)(第4作)
『北の御番所 反骨日録【五】 かどわかし』(芝村凉也・双葉文庫)(第5作)