『一ツ目小僧捕物ざんげ 第一巻 娘天一坊』|戸川貞雄|捕物出版
戸川貞雄(とがわさだお)さんの捕物小説集、『一ツ目小僧捕物ざんげ 第一巻 娘天一坊』オンデマンド本をご恵贈いただきました。
本書は、戦前戦後に活躍し、後に平塚市長となった著者の連作形式の捕物小説です。
御子息には『小説吉田学校』で知られる政治評論家で作家の戸川猪佐武さん、第37回芥川賞を受賞した作家の菊村到さんがいます。
作家市長として知られた戸川貞雄氏。昭和24年より平塚市長就任の昭和30年まで、講談雑誌、宝石などに連載された「一ツ目小僧捕物ざんげ」を作品年代順に4巻に収録。
第一巻には、火刑、水死美人、娘天一坊、蛇娘、捕繩殺人事件、生首、愛宕の天狗、不夜城の惨劇、小判供養、美人局、幽霊花魁、老いらくの恋、捕物腕較べ、二度殺された男を掲載。
(Amazonの内容紹介より)
捕物帳の主人公は、八丁堀は北島町に住む岡っ引きの小伝次。世間では、捕物上手で、一ツ目の小伝次とあだ名されていました。
(前略)一ツ目のあだ名の曰く因縁ですかい、なアに、他愛もねえことですがね、ものを思案するとき、人の顔をじっと見るとき、ちょいとした癖で、こんなあんべしきに、片ッぽの眼、左の眼だがね、これをまあ軽くつぶる、自分じゃア愛嬌のある癖だぐらいに思っていたら、どうもこいつが薄ッ気味わるくて、わしの一ツ目にじっと見られると、誰でもいい気持ちはしなかったそうで。
(『一ツ目小僧捕物ざんげ 第一巻 娘天一坊』「火刑」P.4より)
文政十二年(1829)三月二十一日に、外神田佐久間町河岸で出火した火事(「文政の大火」や「佐久間町火事」と呼ばれる)を題材とした、「火刑(ひあぶり)」が第一話です。
まぐさ問屋刈豆屋忠五郎と隣家の材木屋伏見屋徳右衛門が罪を免れるため火元争いを起こしていました。
親同士が仲が悪くて争っていますが、忠五郎の一人娘お蝶と、徳右衛門の一人息子の徳太郎は、人目を忍んで出来合った恋仲でした。
この年の二月狂言で八百屋お七のお芝居を見たお蝶は、お七の悲しい恋に身をつまされいきます……。
大名屋敷や富商ばかりを狙い、盗んだ金を長屋の貧窮人に恵むという義賊気取りの小鼠小僧という元巾着切りの盗人がいました。
かつて、一ツ目の小伝次は、巾着切りで御用にした小鼠小僧に同情して放してやったことがありました。
その小鼠小僧が十年ぶりに小伝次の訪ねてきました。
小鼠小僧の狙いは何なのでしょうか?
「佐久間町火事」の火元と火事の原因は、思いがけない形で決着します。
小伝次の捕物を助けるのが、子分の豆狸の藤助と吃りの吉の二人です。うすらぼけの藤助、せっかちの吉とも言われながらも、その掛け合いが面白く、意外に失敗がなく、小伝次の役に立っています。
また、旦那の同心戸部隼人や、捕物を競い合うライバルとして、岡っ引き駒形の金太が登場します。
物語は、各話とも小伝次が自身が取り扱った事件の顛末を語る形式で綴られます。第一話の「火刑」で、自身の推理したものとは違う結末になることもあり、「ざんげ」と名付けられました。
収録されたいずれの話も、若い娘が事件に絡んでいく設定となっていて、独身の小伝次が翻弄されながらも、真相に迫るというのが読みどころの一つ。
個人的には、江戸の生き人形師の泉目吉と松江藩主松平斉恒(不昧公の息子)が登場する「生首」が好きな話です。
一ツ目小僧捕物ざんげ 第一巻 娘天一坊
戸川貞雄
捕物出版
2022年7月20日 オンデマンド版初版発行
表紙装画:
「江戸名所八ヶ跡新吉原之図」歌川豊春 アムステルダム国立美術館
目次
火刑
水死美人
娘天一坊
蛇娘
捕縄殺人事件
生首
愛宕の天狗
不夜城の惨劇
小判供養
美人局
幽霊花魁
老いらくの恋
捕物腕くらべ
二度殺された男
本文259ページ
底本
「火刑」「水死美人」「愛宕の天狗」「不夜城の惨劇」「小判供養」「美人局」「幽霊花魁」(春陽文庫『小傳次捕物ざんげ』昭和26年11月30日発行)
「娘天一坊」(高山書院『娘天一坊』昭和31年1月20日発行)
「蛇娘」(博友社「講談雑誌」昭和24年5月号)
「捕縄殺人事件」(博友社「講談雑誌」昭和24年6月号)
「生首」(博友社「講談雑誌」昭和24年7月号)
「老いらくの恋」(博友社「講談雑誌」昭和25年1月号)
「捕物腕くらべ」(報知新聞社「報知新聞」昭和25年1月16日~1月25日連載)
「二度殺された男」白鴎社「小説文庫」増刊「笑の泉」昭和25年6月1日発行
■Amazon.co.jp
『一ツ目小僧捕物ざんげ 第一巻 娘天一坊』オンデマンド本(戸川貞雄・捕物出版)