文庫書き下ろし時代小説の新星、現る!
第11回日本歴史時代作家協会賞の「文庫書き下ろし新人賞」の候補作3作品を紹介します。
対象となるのは、デビューから3年以内の作家で、2021年6月から2022年5月刊行までの文庫書き下ろし作品になります。
文学賞は数多くありますが、文庫書き下ろし新人賞を設定しているのは、日本歴史時代作家協会賞だけかもしれません。
新人作家が文庫書き下ろしでデビューするのは、相当に狭き門で難関です。
一般的に文庫は、単行本よりも価格が安い分、流通量(部数)を多くして採算を取る傾向があります。そのため、短期間である程度の刷部数が期待できるような人気作家、実績のあるシリーズを持っている作家に集中しがち。新人に限らず、気鋭の作家でもチャンスはわずかしかなく、なかなか出版が難しくなっています。
そんな状況の中で、候補に挙がったのは、以下の3作品です。
進藤玄洋(しんとうげんよう)さんの『鬼哭の剣』は、ハヤカワ時代ミステリ文庫より2022年4月に刊行されました。
ハヤカワ時代ミステリ文庫は、2019年8月に創刊した、比較的歴史の新しい文庫レーベル。
その特長を生かし、「ミステリの早川」らしい上質なミステリタッチをもつ作品が並び、時代小説界に清新な風を吹き込む、個性が光る新進作家を輩出しています。
候補作は、江戸時代前期に寛文蝦夷蜂起を起こした、アイヌ部族の惣乙名シャクシャインゆかりのヒーローが活躍する剣豪アクション小説です。
著者はシナリオライター出身で、本書が初の時代小説。
筑前助広(ちくぜんすけひろ)さんの『谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末』は、アルファポリス文庫から2022年2月に出ました。
アルファポリスは、投稿小説サイトを運営し、話題となった優れた作品を紙書籍化しています。
Web投稿サイトからという、小説家デビューの新たな登竜門も注目です。
候補作は、江戸の谷中で用心棒稼業を生業にする主人公が、実弟が九州の藩を脱藩したことから、藩をめぐる陰謀に巻き込まれていく、スケールが大きな痛快エンタメ時代小説です。
著者は、アルファポリス主催の第6回歴史・時代小説大賞特別賞を受賞しています。
柳ヶ瀬文月(やながせふづき)さんの『お師匠様、出番です! からぬけ長屋落語人情噺』は、2022年3月に刊行されたポプラ文庫の一冊。
ポプラ文庫は一度に何冊も刊行されるような派手さはありませんが、人情味豊かで個性がピカリ光る、時代小説を発表しています。第10回の鷹山悠(たかやまゆう)さんの『隠れ町飛脚 三十日屋』もそんな一冊です。
候補作は、堅物な剣術道場の娘が、2年以上も溜めた家賃を払わせるために、不真面目でいい加減な若手落語家に入門したことで起きる騒動を描いた、笑ってホロリさせられる、人情落語小説です。
著者は、別名義で著作がありますが、時代小説は今回が初めて。
果たして受賞の栄誉を勝ち取るのはどなたでしょうか?
注目の選考結果はこちら↓
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『鬼哭の剣』(進藤玄洋・ハヤカワ時代ミステリ文庫)
『谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末』(筑前助広・アルファポリス文庫)
『お師匠様、出番です! からぬけ長屋落語人情噺』(柳ヶ瀬文月・ポプラ文庫)