『あっぱれ! わけあり夫婦の花火屋騒動記』|しそたぬき|富士見L文庫
しそたぬきさんの文庫書き下ろし戦国小説、『あっぱれ! わけあり夫婦の花火屋騒動記』(富士見L文庫)を紹介します。
富士見L文庫は、大人の文学少女を対象として、2014年に創刊された、KADOKAWA(旧富士見書房)が刊行するライト文芸系文庫レーベルです。公募文学賞として富士見ノベル大賞を主催しています。
本書は、2021年、第4回富士見ノベル大賞入選受賞作です。
江戸の貧乏長屋に住むソラ。大店だった生家の花火屋は失火により零落。再興を目指して婿探し中だが、難航している。
十五屋の晩、男がソラの居室の屋根を踏み抜いて落ちてくる。ハルと名乗った男は江戸に来たばかりでゆくあてがないらしい。あきれつつもしめたと思ったソラは屋根の修繕費と引き換えに結婚を持ちかけ、二人は晴れて夫婦となる。
しかしお人好しのハルは厄介事ばかり持ち帰ってくる。一目惚れの相手を捜す娘さん、師匠と決裂した絵師の少女、そしてソラの元恋人――。店の再興はどうなる!?(カバー裏の内容紹介より)
江戸の貧乏長屋の『わけあり長屋』に住むソラは、一年前まで元大店の花火屋・丸屋の箱入り娘。なんの不自由もなく、乳母や下男にお嬢様と呼ばれて育ってきました。
一年前に、生家の丸屋は失火の罪により、父親が江戸払いとなり、店を潰してしました。ソラは激流に流されるように、この長屋にたどり着いて間もない十五夜のころ。
ソラの部屋の天井をから男が落ちてきて、床に大きな穴を開けました。
「実は、月を捕ろうと思いまして」
「はっ、月!?」
こちらが態勢を立て直す間もなく、また意表を突く答えが返ってくる。
「そうです、月。今日のお月さまは大きくて、いつもより近いから、屋根に上ったら手が届くかと思いまして」
へへへっ、と照れくさそうに笑う。」(『あっぱれ! わけあり夫婦の花火屋騒動記』P.40より)
ハルと名乗る男は、長屋の五歳くらいの子供に頼まれて、月を捕ろうとしたと言います。
ハルは田舎から出稼ぎに江戸へ出てきたばかり。職探しを兼ね江戸見物に出かけたはいいが不慣れな町で道に迷い、気が付けば『わけあり長屋』の前で、なんでも欲しがる子供の健坊に声を掛けられたと言いました。
部屋にでっかい穴を二つ開けたハルに対して、ソラは修繕費代わりにある提案をしましました。
「話を戻します。一つ、あたしの頼みを聞いて下さい。それで結構です」
ハルの目がわずかに見開く。
「何でしょう?」
「頼みを聞いて頂けるんですね?」
「おらに出来る事なら、何でも」(『あっぱれ! わけあり夫婦の花火屋騒動記』P.45より)
ソラは、婿になり、再興を目指す丸屋の旦那になることを頼みました。
江戸に出てきたばかりで、宿なし、職なし、おまけに銭もないハルにとっては、夢みたいな話です。
店が火事を出したことで、親父殿は家財没収の上、江戸払いとなり、たくさんいた職人や手代たちも去り、残ったはソラと屋号だけ。
女店主は世間の風当たりが強く、店を再建させるためには婿を取る必要があったのです。
しかしながら、ただでさえ危険な商売に加え、騒動を起こした店に誰も婿に来たがりません。
ハルは、天井の修理代を帳消しにしてもらえる上に、住まいと仕事が頂けるとのことで、ソラの申し出を快諾しました。
ところが、不器用でお人好し、人を疑うことを知らないハルは、ソラの作った花火を売り歩きますが、つぎつぎに厄介事を持ち帰ります。
一目惚れの相手を捜す大店の娘おチョウや、師匠安藤狂斎と決裂した絵師の少女おリン、そしてソラの元カレと。
ソラとハルの仲はどうなっていくのか?
店の再興はなるのか?
おちゃっぴいで粋な江戸娘ソラが何ともキュートで、物語の世界に引き付けられます。
そして、絵師円山応挙が描く犬を想起させる愛嬌溢れる顔で、不思議と心を捉えて離さないハルの魅力。
笑わせられながらも、ホロリとさせられる、ロマンチックな江戸ラブコメディ。
読み終えたばかりですが、続編を読みたくなりました。
あっぱれ! わけあり夫婦の花火屋騒動記
しそたぬき
KADOKAWA 富士見L文庫
2022年7月15日初版発行
イラスト:樹もゆる
カバーデザイン:アルビレオ
●目次
序章
第一章 【晴雲秋月】
第二章 【籠鳥恋雲】
第三章 【威風凛凛】
第四章 【笑門来福】
第五章 【雨過天晴】
終章
あとがき
本文286ページ
文庫書き下ろし
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『あっぱれ! わけあり夫婦の花火屋騒動記』(しそたぬき・富士見L文庫)