『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜3 夕映えの殺意』|鳴神響一|幻冬舎文庫
鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし警察小説、『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜3 夕映えの殺意』(幻冬舎文庫)をご恵贈いただきました。
女子高生と見まごう童顔の美人警察官、細川春菜が、捜査協力員=「ヲタク」の知識を借りて、難解な殺人事件の謎を解く、警察小説シリーズの第3弾です。
捜査一課の浅野が美貌の新米刑事を伴って専門捜査支援班にやってきた。捜査が難航している二件の事案への協力を春菜に要請したいという。その打ち合わせの最中、聞き耳を立てていた春菜の同僚の葛西が、二つの現場はいずれも人気アニメの「聖地」で関連性があると言い出した。そのひと言で軌道修正された捜査は思わぬ方向へと進展してゆき……。
(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜3 夕映えの殺意』カバー裏の紹介文より)
細川春菜巡査部長が神奈川県警刑事部捜査指揮・支援センター専門捜査支援班に異動して二ヶ月弱。各分野の専門知識を持っている学者などから、捜査の参考になる専門知識を収集する役目を担っています。
その中で、春菜が担当している登録捜査協力員は、神奈川県民で登録制の各分野のヲタクばかりです。春菜は、わずかに1カ月あまりで、ヲタクたちの協力を得て難事件を二つも解決しています。
そんな春菜のもとを、捜査一課強行七係主任の浅野康長警部補が、美貌の新人刑事喜多尚美を伴って、やってきました。
浅野と喜多は、小田原市根府川のレンタルコテージで、薄田兼人という二十九歳の会社員が一酸化炭素中毒で不審死を遂げた事件を調べていて、春菜の力を借りに来ました。
「コテージの部屋は内側から施錠され密室状態だった。さらに遺書らしきものもあった。薄田さんのスマホが残されていたんだ。このなかに入っていたメモアプリに遺言と思しき内容が残されていて、表示される状態になっていた」
「どんな内容だったんですか」
「それがな、『あの海岸で犯した罪を償います。根府川駅のベンチの向こうの夕陽の海に飛び立ちます』というものだった」(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜3 夕映えの殺意』P.26より)
根府川の事件のちょうど一年前、国府津海岸の砂浜で堀内久司という当時二十七歳の会社員が撲殺されていて、その事件の犯人は検挙できずにいました。
根府川で死んでいた薄田は、国府津海岸の堀内殺しの犯人なのでしょうか?
近くの席で三人の話を聞いていた、春菜の同僚で、理・医・薬学系の学者と医師等の担当である葛西信史は、「ちょっと待ってください」と声を掛けて、話に加わってきました。
「この二箇所って、関連性がありますよ」
葛西は自信たっぷりに言った。
「なんだって!」
康長は驚きの声を上げた。尚美はハッとした表情を見せたが、春菜も驚いた。
「どんな関連性があるって言うんだよ」
「いわゆる『聖地』なんですよ」
嬉しそうに葛西は言った。(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜3 夕映えの殺意』P.30より)
葛西によると、国府津海岸と根府川駅、二つの場所は、アニメ『ラブライブ!』の聖地として有名だと。
しかも、根府川のコテージで亡くなった薄田の遺留品のザックには、『ラブライブ!』のお守りが付いていました。
浅野は、春菜と尚美に加えて、葛西も連れて、事件現場に行ってみることになりました。
前作の大友に続き、本書では葛西が事件の鍵を解く重要な役割を演じています。
実在で現在もプロジェクトが進行中のアニメ、『ラブライブ!』が全面的に登場します。
本書を読むまでアニメのことは知りませんでしたが、興味をもって調べてみると、廃校の危機にある学校を救うため、九人の女学生がアイドルグループを結成して、奮闘し成長する姿を描いた青春学園ストーリーだそう。
リアルな人気アニメを取り上げ、警察ミステリーに仕上げた意欲作で、アニメ聖地ヲタクの心情に触れられて、強く引き付けられました。
「ヲタク」たちの生態と心情に注目した、この警察小説シリーズには、時代小説にはない、ビビッドに描がれた今を体感できるという別の面白さを覚えました。
神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜3 夕映えの殺意
鳴神響一
幻冬舎 幻冬舎文庫
2022年7月10日初版発行
カバーデザイン:舘山一大
カバーイラスト:田中寛崇
●目次
第一章 ふたつの事件
第二章 聖地ヲタクたち
第三章 悲しみのアプローチ
第四章 守れなかったもの
本文262ページ
文庫書き下ろし
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『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜』(鳴神響一・幻冬舎文庫)
『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜2 湯煙の蹉跌』(鳴神響一・幻冬舎文庫)
『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜3 夕映えの殺意』(鳴神響一・幻冬舎文庫)