『駆ける 少年騎馬遊撃隊』|稲田幸久|角川春樹事務所
稲田幸久さんの歴史時代小説、『駆ける 少年騎馬遊撃隊』(角川春樹事務所)を紹介します。
著者は、2021年5月、本書(応募時のタイトルは「風雲月路」)で第13回角川春樹小説賞を受賞し同年10月に単行本デビューしました。
2022年6月には、続編の『駆ける(2) 少年騎馬遊撃隊』を上梓しています。
吉川元春に拾われ
馬術を見出された少年・小六。
尼子再興を願う猛将・山中幸盛(鹿之助)。
ともに戦火で愛する人を失った
二人の譲れぬ思いが、
戦場でぶつかる――!(本書カバー帯の紹介文より)
永禄十三年(1570)。
出雲国近松村に住む、十四になる少年・小六(ころく)は、歳の近い宗吉郎、藤助、甚太と、暇があればいつも集まって遊んでいました。
その夜、大人たちが宴で盛り上がっている間、宗吉郎らと四人で馬を夜駆けさせて帰ってくると、村は一変していました。
四人は確かに見たのだ。
村を駆け回る具足の男。
野良着の女に振り下ろされる刀。
夜空を焦がす紅蓮の炎の下、地獄絵図のような光景が広がっている。
「燃えてる! 村が燃えてるよ!」(『駆ける 少年騎馬遊撃隊』 P.35より)
盗賊たちによって村が襲われました。
村一番の力持ちで十六歳の宗吉郎と同い年で冷静な藤助は、荒れ狂う焔に飛び込んでいきますが、賊徒たちに殺されてしました。
隣村に助けを求めに行った小六が近松村に戻って来ると、村は静まり返り、賊は馬たちとともにすでに去ったよう。
村で小六が見たのは、黒く焼け焦げて、変わり果てた姿の父と母と妹。
恐ろしい思いをして、失神した小六を助けたのが、近松村を領国に加えたばかりの毛利元就の次男、吉川元春と軍師の香川春継でした。
山中幸盛は額に掲げた手を下ろすと、平地に集結した軍勢に目を向けた。
兵は七千を超えた。日に日に増している。
(出雲はやはり尼子の地だ)
毛利の支配に不満を覚える者が、こんなにいる。(『駆ける 少年騎馬遊撃隊』 P.48より)
四年前に毛利によって滅ぼされた尼子家。
山中鹿之助幸盛は、一族の遺児・尼子勝久を擁して、出雲に戻って八カ月。
旧臣たちが続々と集結し、その軍勢は膨れ上がり、出雲を再び支配下に治める勢いが……。
幸盛は毛利元就の計略によって、大切な人を失い、以来、元就を仇と狙い毛利家を倒すことを生きる目的にして生きてきました。
尼子再興軍が攻め右月山富田城に程近い、布部山で毛利軍と相まみえることに……。
本書の面白さの一つに、馬術の優れた少年・小六の人物造形があります。
家族を失い、その衝撃で声が出なくなりながらも、愛馬風花の存在や毛利軍の侍たちの愛情ある教育により、騎馬隊の頭として成長していきます。
騎馬隊を交えた躍動的な戦闘場面は手に汗握るような臨場感があり、引き込まれました。
三日月に向かって「我に七難八苦を与えたまえ!」と叫んだ、物語のもう一人の主人公、山中幸盛。その負のヒーローぶりは、小六とは対照的な描かれ方で、この作品に奥行きをもたらすことに成功しています。
続編『駆ける(2) 少年騎馬遊撃隊』では、小六と幸盛がどのような描かれ方をしていくのか、大いに気になって眠れなくなりそうです。
駆ける 少年騎馬遊撃隊
稲田幸久
角川春樹事務所
2021年10月18日第一刷発行
装画:もの久保
装丁:bookwall
●目次
風と駆ける少年
月の光
秘策
尼子の魂
布部山の戦い
風雲月路
本文333ページ
本書は第13回角川春樹小説賞受賞作品「風雲月路」を改題の上、大幅に加筆・訂正したもの。
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『駆ける 少年騎馬遊撃隊』(稲田幸久・角川春樹事務所)
『駆ける(2) 少年騎馬遊撃隊』(稲田幸久・角川春樹事務所)