『居酒屋こまりの恋々帖 ときめきの椿揚げ』|赤星あかり|ハヤカワ時代ミステリ文庫
赤星あかりさんの文庫書き下ろし時代小説、『居酒屋こまりの恋々帖(れんれんちょう) ときめきの椿揚げ(つばきあげ)』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)紹介します。
本書は、酒が好きでおせっかいな美人女将こまりと、元ゴロツキの料理人ヤスが営む日本橋大伝馬町の居酒屋小毬屋を舞台に繰り広げられる人情活劇です。
なじみ客も増えてにぎわう居酒屋小毬屋。だが花見の頃だというのに世間では暗い話が、“闇うさ”なる凄腕の髪結い師が、極上の化粧を女にほどこすのだが、朝に化粧のおちた女の顔を見ると男は心が離れ、女は破滅するだという。そんなとき、夫の不義を悩みなにも食べなくなった女が小毬屋に。元夫への恋慕が残るこまりには気持ちがわかり、料理で女の食欲を刺激しようとするが……優しさに満ちた居酒屋時代小説!
(本書カバー裏の紹介文より)
松平定信が筆頭老中となって、その指揮のもと寛政の改革が断行され、厳しい倹約令や出版統制令が出されていた時代(寛政三年)。
桜が満開に咲き乱れる花見ごろ。
巷では、凄腕の髪結いの闇うさによる、無理心中が流行っていました。
髪を結うばかりでなく化粧もうまい、闇うさの手にかかると、どんな醜女も吉原一の太夫に化けさせるという。
綺麗になった女はみな意中の男に逢いにいき、男と女は一夜を共にし、朝を迎えると悲劇が起こります。朝日のなかで、化粧は落ち、変わりすぎた女のすっぴんを見て、男は狸に化かされていたのだと逃げます。女は逆上し、次第に追い詰められて、心を病んでいき、男に無理心中を迫るという、そういった事件が江戸で頻発していました。
本好きの商人大野屋惣八が、小毬屋に薬種問屋の女房お銀を連れてやってきました。
健康な女子だったが、ある時から太るからといって、ごはんを食べなくなったといいます。
お銀は、三年ほど前に薬種問屋の永沢屋に嫁いだ二十歳過ぎ。器量が悪いわけではないが、やせ細って生気のない顔をしていました。
店でおいしい料理をすすめても、「ごはんなんて食べたら太ってしまうわ」と激高します。離縁された夫に恋慕をいだくこまりは空腹を押さえながら絶食を続けるお銀をほっておけず、店を飛び出したお銀を追って、近所の水茶屋に連れ出して、ある秘密を聞き出しました。
「……卯吉さまです」
「卯吉さまってどなた」
「髪結い師のおかた。あたしは豚のように肉が肥えているから、まずは肉を削ぎ落とさなければならないと教えてくだささったんです。生米と生薬だけで過ごして痩せることができたら化粧をしてくださるって約束したんです」
「それって、もしかしなくても闇うさのことじゃないの!」
こまりは思わず大声をだした。
(『居酒屋こまりの恋々帖 ときめきの椿揚げ』 P.204より)
こまりが、不実な夫に悩むお銀のために一肌脱ぐ「椿心中」のくだり。
そのほかに、こまりが店の常連の忘れ物だと勘違いして渡した本が騒動になり、箸を使わない百薬の蕎麦を追い求めることになる「蕎麦百珍の謎」。
「淡雪のふわふわ」は、小毬屋に七つか八つぐらいの武家の少年明彦がやってきて、こまりに酒呑みの弟子入りを請う、ほのぼのとした話。
「氷の残響」は、炎天下のうだるような猛暑の中、加賀藩のお氷様献上をめぐる冒険譚。
今回もおいしいお酒と料理を源にする元気女のこまりが、人々の悩みに全力投球で挑みます。ヤスのほか、妖刀使いをうそぶく銕之丞、火盗改メの白旗、大野屋など店の常連たちとの掛け合いも楽しく、店の看板娘ならぬ看板かわうそのひじきも可愛くて、次々に出される料理とともに楽しいひと時が過ごせます。
こんな居酒屋があったら通いたい、面白さがさらにパワーアップした、居酒屋小説の第2弾です。
居酒屋こまりの恋々帖 ときめきの椿揚げ
赤星あかり
早川書房・ハヤカワ時代ミステリ文庫
2022年6月15日発行
カバーイラスト:山本祥子
カバーデザイン:大原由衣
●目次
第一献 蕎麦百珍の謎
第二献 淡雪のふわふわ
第三献 椿心中
第四献 氷の残響
本文345ページ
文庫書き下ろし。
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『居酒屋こまりの恋々帖 おいしい願かけ』(赤星あかり・ハヤカワ時代ミステリ文庫)
『居酒屋こまりの恋々帖 ときめきの椿揚げ』(赤星あかり・ハヤカワ時代ミステリ文庫)