『エクアドール』|滝沢志郎|双葉社
滝沢志郎(たきざわしろう)さんの長編歴史時代小説、『エクアドール』(双葉社)を紹介します。
命知らずのヨーロッパの男たちが一攫千金を夢見て新大陸やアジアを目指した大航海時代。日本では戦国時代に当たります。
本書は、種子島に鉄砲が伝来する二年前(1541)から物語が始まります。
元倭寇の琉球人(レキオス)の官人が仲間たちと、新兵器仏朗機砲を求めて、ポルトガル人が支配する東南アジアのマラッカを目指して船旅をする冒険時代小説。
著者は、2017年に『明治乙女物語』で第24回松本清張賞を受賞しデビューした気鋭の作家です。
東シナ海で勢力を拡大する海賊集団「倭寇」から琉球を守るためには最新の大砲・仏朗機砲が必要――そう進言した元倭寇で琉球王府役人の眞五羅は、仲間たちとともにポルトガル人が支配するマラッカを目指し旅に出る。だが、マラッカ周辺は3つの国が争う危険地帯。眞五羅たちは命の危険にさらされながらも目的地を目指す――。
(『エクアドール』カバー帯の紹介文より)
那覇里主所(那覇の行政機関)の下級官人、眞五羅(まごら)は、ある日、中国人の許棟が率いる倭寇を那覇に迎えました。
眞五羅は、朝鮮の釜山浦で、対馬人の父と朝鮮人の母の間に生まれた元倭寇で、倭寇の恐ろしさを知る一人でした。
許棟の倭寇には、眞五羅のかつての仲間で日本人の弥次郎もいて、二年ぶりに再会した二人は、倭寇への対抗策を話し合います。
倭寇を追い払い、那覇の海を血の海にしないためには、仏朗機(フランキ)と呼ばれるポルトガル人によって東南アジア、明にもたされた西洋式の大砲、仏朗機砲が必要という考えで一致。眞五羅は、それを買い付けるために、東南アジアのマラッカに行くことを直属の上司、王農大親に提言しました。
「エクアドール」
眞五羅は弥次郎を見上げた。顎髭を亀寿に引っ張られながら。
「エクアドール?」
「太陽の通り道という意味だ。仏朗機の奴らが言うには、マラッカはエクアドールの真下にある」
(『エクアドール』 P.56より)
眞五羅の提言が御主加那志の耳に入り、、仏朗機(ポルトガル)が支配するマラッカに特使を派遣して入手ることが決まりました。
王農大親(おうのうふや)が特使となり、名門・(よなぐすく)の嫡男樽金(たるがね)が副使に選ばれ、眞五羅も貿易の責任者に抜擢されました。
樽金は先祖が旅役の途上で倭寇に殺害されたことがあり、筋金入りの倭寇嫌いで、眞五羅ともひと悶着があったばかりでした。
王農大親と眞五羅は、明からの帰化した華人で、航海術の専門集団が住む那覇の久米村(クニンダ)の梁元宝を訪れ、旅役で正使・副使に次ぐ役職の「通事」を依頼しました。王農大親と梁元宝は、三十年前にマラッカへの最後の使節団に参加している仲でした。
夏が終わり、風向きが南から北へと変わり、旅人を眞南蛮へと誘う風が吹く、秋。
使節団は福建、広東、アユタヤ、パタニを経て、マラッカを目指します。
「舟楫(船)をもって万国の津梁(架け橋)となす」を謳い、海を越えて人と物を運ぶ、人と人、物と物を出会わせる、海洋立国を目指す琉球。中継貿易により、国を繁栄させてきましたが、倭寇の跋扈のほか、独自の産物に恵まれないことからこの国を目指さない海商もいて、商運は傾きかけていました。
眞五羅ら一行は、多くの危険や困難が待ち構えている船旅。首尾よくマラッカに到達して、仏朗機砲を入手できるのでしょうか。
故国を、愛する者を守るために、心が通じ合う仲間たちと命懸けで戦う、友情と冒険に満ちた旅に、胸が熱くなるエンターテインメント歴史時代小説です。
エクアドール
滝沢志郎
双葉社
2022年5月22日第1刷発行
装幀:岡田ひと實(フィールドワーク)
装画:agoera
●目次
序章
第一章 海の王国
第二章 風は眞南蛮へ
第三章 ホラ吹き男の受難
第四章 倭寇の戦
第五章 十字架と北極星
第六章 海の要塞
第七章 マラッカの夕陽
第八章 聖母の丘へ
第九章 約束の地
第十章 果てなき世界
終章
主要文献
本文430ページ
初出:「小説推理」2021年5月号~2022年2月号に掲載後、書籍化にあたり、加筆修正。
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『エクアドール』(滝沢志郎・双葉社)
『明治乙女物語』(滝沢志郎・文春文庫)