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荒れ果てた戦国を変えようと熱き涙を流す、若き日の織田信長

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『信長の血涙』|杉山大二郎|幻冬舎時代小説文庫

信長の血涙杉山大二郎さんの長編歴史時代小説、『信長の血涙』を紹介します。

本書は、若き日の織田信長を新しいヒーローとして描いた『嵐を呼ぶ男!』を改題し、文庫化に際して、大幅に改稿した作品です。

著者は、2019年に同作で時代小説デビューし、2020年、第9回日本歴史時代作家協会新人賞の候補(受賞は坂上泉さんの『へぼ侍』)となりました。
その後、歴史小説家の団体「操觚の会」の事務局長をつとめ活躍するかたわら、『さんばん侍』など作品を発表しています。

生き馬の目を抜く戦国の世。国は荒み、民百姓は飢えていた。「この世界を作り変えるのだ。俺に力を貸せ!」天下静謐の理想に燃える大うつけの信長だが、常に国境を敵に脅かされ、その貧弱な」兵力では終わり統一すらままならない。やがて織田弾正忠家の家督を巡り弟・信勝謀反の報せが届く。涙もろく情に厚い、全く新しい織田信長を描く歴史長編。

(本書カバー裏の内容紹介より)

二十歳の織田信長は、美濃との国境の尾張の寒村に、前田利家と池田恒興を供回りにして、物乞いに化けて民の様子を探っていました。
三人は、そこで、年老いた農夫が飢えて路傍で倒れると、老僧が身ぐるみを剥ぎ取り、小さな女の子の首を母親が締めて殺すのを目にしました。

信長は母子を助けることができず、己の非力を思い知り、熱き涙を流します。

五人の屈強な男を従え、馬借生駒八右衛門家長の美しい妹、吉乃が村人たちに炊き出しにやってきました。吉乃は、無理矢理に三人にも握り飯を押し付け、「この辺りで上総介様を見かけなかったか」と尋ねました。

上総介とは織田上総介三郎信長のこと。

「なぜ、上総介様を探しているのだ」
 若者が問い返した。
「決まっている。首を獲るのだ。聞けば、信長は大うつけと呼ばれているらしいな。ならば、たいした輩ではなかろう」
 上総介様から信長に変わっている。
「諱を呼ぶとは、大層恨みが深いとみえる」

(『信長の血涙』P.26より)

吉乃は、国が乱れるのは治める者がからっぽ、うつけだからだと言い、真に民を助けるには、戦をなくすための根本に手を打たなければならないと、本気で信長の首級を獲る気でいました。

「すべての国がなくなれば世は平和になる」
 若者が凍りついたように、躰を止めた。やがて、瞳に強い光が宿る。
「ふふんっ、たしかに理に適っている。おもしろい。ならばこの日の本から尾張以外のすべての国をなくせば、極楽浄土のような静謐が訪れるという訳か」
 
(『信長の血涙』P.32より)

尾張の守護斯波家のもとで、尾張八郡のうち北部を織田伊勢守家、南部四郡を織田大和守家が守護代として分割統治していました。そこに武をもって台頭したのが、織田大和守家の三奉行の一人に過ぎなかった織田弾正忠家の棟梁、織田備後守信秀でした。
その信秀が病で急逝し、嫡男信長が家督を継いだのが二年ほど前のこと。

炊き出し中の吉乃と村人らを、十文字槍を駆使する大男の可成が率いる山賊が襲い、信長らが戦います……。

信長は、同腹の弟で末森城主の織田勘十郎信勝と仲が良く、信勝も兄に弓引く気などありません。粗野で頑固で事故奔放に暮らし、大うつけと呼ばれる兄、礼節を重んじ、謹厳実直に生きる大人しい弟。

民を生かすために天下を造り替えることを考える兄と、重臣たちの声を聞き御家を守ることこそ肝要と思う弟。

東から今川義元の脅威が募り、美濃の斎藤道三もいつ襲いかかってくるかわかりません。織田弾正忠家を取り巻く環境が日増しに厳しさを増していく中、尾張国内は、上四郡守護代の織田伊勢守家、下四郡守護代の織田大和守家、犬山城の独立勢力織田信清、織田弾正忠家においても那古野城の信長派家臣と、末森城の信勝派家臣が険悪な関係となり、牽制し合いながら一触即発の状態となっています。

信長は、天下静謐という夢に向かい志を持って戦い、すぐに熱き涙を流し、真正面から突破していきます。
これまで見たことのない、戦国に嵐を呼ぶ男、信長に胸が高鳴り、魂が震えます。

信長の血涙

杉山大二郎
幻冬舎 幻冬舎時代小説文庫
2021年12月10日 初版発行

カバーデザイン:bookwall
カバーイラスト:永井秀樹

目次
第一章 飢餓の国
第二章 煌光の轍
第三章 天道照覧
第四章 時刻到来
第五章 天下布武
解説 伊東潤

本文514ページ

『嵐を呼ぶ男!』(徳間書店、2019年11月刊行)を改題し、再構成したもの。

■Amazon.co.jp
『信長の血涙』(杉山大二郎・幻冬舎時代小説文庫)
『さんばん侍 利と仁』(杉山大二郎・小学館文庫)

杉山大二郎|時代小説ガイド
杉山大二郎|すぎやまだいじろう|時代小説・作家 1966年、東京生まれ。 従業員1万人超のIT企業において、経営幹部として販売力強化やセールスプロモーションの統括責任者を務めた後、独立し、コンサルタントとして活躍。SFAやCRMによる営業革...