『萩の餅 花暦 居酒屋ぜんや』|坂井希久子|時代小説文庫
坂井希久子(さかいきくこ)さんの時代小説、『萩の餅 花暦 居酒屋ぜんや』を紹介します。
お妙と只次郎の夫婦の養い子となったお花、日本橋本石町にある薬種問屋俵屋に奉公している熊吉、若い二人を主人公とする、「花暦 居酒屋ぜんや」シリーズの第二弾です。
早い出世を同僚に妬まれている熊吉。養い子故に色々なことを我慢してしまうお花。二人を襲う、様々な試練。それでも、若い二人は温かい料理と人情に励まされ、必死に前を向いて歩きます。粒餡たっぷりのおはぎ、平茸、初茸、占地、栗茸、松露に網茸と山の幸ふんだんの茸汁、赤貝の漬け込み飯、蒟蒻と鰤のアラ煮――心をほっと温め、そっと背中を押してくれるような、江戸の色とりどりの料理たちと健気な二人の奮闘に心満たされる人情時代小説、第二弾!
(本書カバー裏の内容紹介より)
寛政十一年(一七九九年)、文月の夜。
早い出世を妬んだ手代頭留吉とその取り巻きらによって、手代の熊吉は試作中の滋養強壮剤・龍気養生丹を飲まされて、奉公人用の部屋に、女中のおたえと二人きりにされました。住み込みの奉公人同士が男と女の仲になることは御法度です。
熊吉は何とか窮地を脱しました。留吉は手代頭の役を解かれ、しばらく下男の仕事に甘んずることになり、その取り巻きだった三人も向こう半年は給金の出ないただ働きになり、藪入りの休暇もなしとなりました。
甘い仕置きでしたが、騒動はこれだけでは収まらず、さらなる事件が起こりました……。
「お花ちゃんの、大噓つき!」
幼い声に責められて、お花はぴくりと身を震わせた。
声をかぎりに叫んだおかやが、大きく肩で息をする。目尻には、きらりと光るものが見えた。(『萩の餅 花暦 居酒屋ぜんや』P.50より)
一方、お花は、「ぜんや」の裏長屋に住むおかみ連中の一人、おえんの娘おかやと喧嘩してしまいました。
升川屋の若様千寿が「ぜんや」にやって来たら、会いたいからぜひ呼んでくれと頼まれていましたが、今日まで千寿の訪れを内緒にしていたこと。おかやにそうと知れたとたん、明らかに「しまった」という顔をしたこと。お花は千寿に横恋慕して、おかやに意地悪をしていると訴えました。
傷ついたのはお花が先で、おかやに失礼なことを言われて、その後の頼みなど聞いてやる義理はないと頑なになってしまいました。お花の胸にはわだかまりが残り、本音では言い訳もしたくなく、謝りたくもありません。
だって、おかやちゃんも悪いのに――。
気持ちが空回りして、考え込んでしまいしくじり続きのお花を、只次郎が亀戸村の萩寺龍眼寺にに連れ出してくれました。
寺では、菱屋の隠居と俵屋の主が待っていました。
「握り飯と漬物があれば充分と言っておいたのに、これはこれは」
重箱の中身は、まず竹皮の包みが四つ。それから鯵の揚げ糝薯に、海苔を巻き込んだ卵焼き、隠元の胡麻和え、甘味として、栗の甘露煮まで入っている。
「やぁ、これはおこわですか。なんとも具だくさんな」
(『萩の餅 花暦 居酒屋ぜんや』P.71より)
廉価版の龍気養生丹改め、龍気養生丹の売り方を任された、俵屋の若旦那と熊吉は、吉原の妓楼に売り込みにいきました。薬の委託販売できる売弘所となってもらうためです。
ところが……。
いじらしくてかわいい少女お花は、戸惑い、考え、失敗しながらも、周りの人に助けられて、少しずつ「ぜんや」の一員となっていきます。才気煥発な熊吉は、俵屋での出世を誓い、新薬の販売に一層励みます。
若い二人の奮闘する姿に癒される、シリーズ第二弾でした。
萩の餅 花暦 居酒屋ぜんや
坂井希久子
角川春樹事務所 時代小説文庫
2022年4月18日 第一刷発行
装画:Minoru
装幀:藤田知子
目次
荒れもよう
花より団子
茸汁
身二つ
人の縁
本文235ページ
初出:「荒れもよう」「花より団子」「茸汁」「身二つ」はランティエ2021年12月~2022年3月号に掲載された作品に、修正を加えたもの。
「人の縁」は書き下ろし。
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『すみれ飴 花暦 居酒屋ぜんや』(坂井希久子・時代小説文庫)
『萩の餅 花暦 居酒屋ぜんや』(坂井希久子・時代小説文庫)