『鬼哭の剣』|進藤玄洋|ハヤカワ時代ミステリ文庫
進藤玄洋(しんとうげんよう)さんの文庫書き下ろし時代小説、『鬼哭の剣(きこくのけん)』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)を紹介します。
「鬼哭」とは、goo国語辞書によると、「亡霊が浮かばれないで泣くこと。また、その声」と定義されてます。
『鬼哭の剣』は、北方謙三さんや鳥羽亮さんの剣豪小説にも同名のものがあります。
かつて和睦と見せかけて和人はシャクシャインの一族を謀殺――最期にその口から放たれたのは「ポニ…タク…」というアイヌ民族が神に祈る呪いの言葉だった。元禄二年、弘前藩津軽家の屋敷の前で無残な骸が見つかる。忠臣の蠣崎仁右衛門の首が切断され、口に黒百合を咥えさせられていたのだ。津軽家の嫡男、信重は父のように慕っていた仁右衛門の仇を討つことを誓う。家中では藩への呪いでは、という噂があるとわかり……。
(本書カバー裏の紹介文より)
江戸の前期、寛文九年(1669)十月、松前家と五カ月にわたって戦ったアイヌ民族の惣乙名シャクシャインは、和議を結ぶために松前軍の総大将松前八左衛門の陣地を訪れた際に謀殺されてしまいした。
突然、幔幕を引きちぎるほどの雪まじりの烈風が襲い、シャクシャインの生首が腰を抜かした伝兵衛の足元に転がってきた。
「ポニ……タク……」
シャクシャインの声を伝兵衛はたしかに聞いた。
その怨念のこもった声に、伝兵衛は血の気が引く思いだった。
――ポニタク。
アイヌ民族が神に祈る呪いの言葉だった。
(『鬼哭の剣』 P.16より)
二十年後の元禄二年(1689)。
越前屋充右衛門は、吉原である出来事をきっかけに、弘前津軽家の世子・津軽出羽守信重(後の信寿)と出会いました。ともに一刀流の宗家・小野次郎右衛門忠於に剣を学ぶ兄弟弟子でした。
武士が下馬すると、大門を潜って仲之町通りを駆けてきた。家来の相馬大介だった。相馬は血相を変えていた。
「殿! 大変です」
「なにが起こったのだ?」
相馬の形相にただならぬものを感じて訊いた。
「中屋敷の御門前に……蠣崎仁右衛門の御遺体が……」(『鬼哭の剣』 P.32より)
本所にある津軽家中屋敷に急いで戻りました。
最初に発見した者の話では、仁右衛門は頭部と胴が切断された上に、口にクロユリを銜えた姿で発見されたと。目付の話では、昼日中の出来事ながら、目撃者はいないと言います。
津軽家の忠臣・仁右衛門の墓前で、「お主の仇は、俺が討つ」と誓った津軽信重は、日本橋の商人充右衛門や、町方同心・美濃部らの力を借りて、事件の謎を探りました。
シャクシャインの呪いから始まり、父子の相克、アイヌの矜持、一刀流の剣技の冴え、遊女との恋がテンポの良いストーリー展開の中で描かれていき、ラストまで目が離せません。
行間から「鬼哭」が聞こえ、魂が揺すぶられる一冊です。
鬼哭の剣
進藤玄洋
早川書房・ハヤカワ時代ミステリ文庫
2022年4月15日第1刷発行
カバーイラスト:ヤマモトマサアキ
カバーデザイン:k2
●目次
序章 寛文九年(一六六九年)十月二十三日 松前
第一章 元禄二年(一六八九年)の禍事
第二章 信重からの依頼
第三章 信重の他出
第四章 真相
第五章 決別
第六章 対決!
終章
本文355ページ
文庫書き下ろし。
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