『おんな与力 花房英之介(四)』|鳴神響一|双葉文庫
鳴神響一さんの文庫書き下ろし時代小説、『おんな与力 花房英之介(四)』(双葉文庫)を紹介します。
不慮の事故で亡くなった兄花房英之介に成り代わって、男装して町奉行所与力となった妹の志乃を主人公にした、痛快時代小説シリーズの第四弾にして、最終巻となります。
見目麗しき新米与力、花房英之介。その正体は死んだ兄に成り代わり男として生きる、花房志乃――。乙女心をひた隠し、持ち前の度胸と才覚で次々と罪人を召し捕っていた。
そんな折、江戸の町では商家の商人を狙った辻斬りが横行。ある夜、英之介は道端で倒れている商家の主人を見つけるが、走り去る武士を捕り逃がしてしまう。後日、商人が襲われた商家から奉公人らが忽然と姿を消したとの噂を聞いた英之介は探索を始める。しかし、裏には思いもよらぬ人物の暗躍が……。おんな与力が華麗に悪を斬る書き下ろし痛快シリーズ、最終巻!(本書カバー裏の紹介文より)
明和五年(1768)正月二十日。
北町奉行所当番方与力の花房英之介は、御蔵前の森田町の札差で起きた火事の現場に当番方として駆けつけました。
見聞すると、あちこち血だらけで、主人夫婦と子どもをはじめ、店の者は皆斬られて殺された上に、火を掛けられていました。
蔵は観音開きの扉とその奥の引き戸が開かれていて、黒い鉄の錠前が真っ二つに断ち切られていました。恐ろしく腕の立つ者が賊の一味にいるようです。
遅咲きの梅の香が闇に漂う夜、英之介は深川伊勢崎町横の仙台堀沿いの道を歩いていて、辻斬りに出くわしました。
「待てっ、待たぬかっ」
英之介は声を限りに叫んだ。
上之橋の橋詰まで来ると、武士は右手の仙台堀へと消えた。
「あっ……」
英之介が追いついたときには遅かった。
武士は小舟に乗ってすーっと大川へ漕ぎ出していた。
(『おんな与力 花房英之介(四)』 P.32より)
英之介は、辻斬りをした武士を追いかけましたが、捕り逃がしてしまいました。惨劇が起きた場所に戻ると、あたりは一面血の海で、商家の主従の二人とも首の血筋を斬られて死んでいました。
英之介は、伊勢崎町の町役を呼び、北町の花房と名乗り、親戚を訪ねての帰りにたまたま殺しの場面に出くわしたことを告げて、亡骸の始末と係の定町廻り同心への届け出を依頼して、現場を後にしました。
翌日、出仕した英之介は同心から、殺されたのが深川島崎町の材木商の主人と手代であることを知らされ、続けて起こっている一連の辻斬りと同じ賊の仕業ではないかという考えられると告げられました。
「わたしが罪もない商人を斬ったと申すのか」
声をひそめて英之介は訊いた。
「どうやら、一昨日の松平さま蔵屋敷前の一件から出た噂のようですね」
「ば、馬鹿な……わたしはただ、賊を追っただけなのだぞ」
英之介は怒りに震えた声を出した。(『おんな与力 花房英之介(四)』 P.46より)
ところが、その翌日になると、英之介が辻斬りに関わっているのではないかという妙な噂が奉行所内でささやかれていました。
英之介は自身への疑いを晴らすために、小網河岸の船宿「しみづ屋」の女将ユキや、幇間の茶ら平の助けを借りて、事件の探索を始めました……。
英之介は、辰巳芸者の花吉や女武芸者清水雪緒に変身して、探索をしたり、悪を懲らしめたりします。
ところが、兄の代わりになると心に決めたときから女を捨てて男として生きる覚悟をしたはずなのに、鏡で見た自身の女の姿に恍惚となり、体も心も女のままであることに気づいてしまいました。
乙女心を押し隠して、悪と戦うおんな与力花房英之介、その華麗な雄姿をいつまでも目に焼き付けたいと思います。
おんな与力 花房英之介(四)
鳴神響一
双葉社・双葉文庫
2022年4月17日第1刷発行
カバーデザイン:長田年伸
カバーイラストレーション:山本祥子
●目次
第一章 妙な噂
第二章 追跡
第三章 天網恢々
第四章 咲く花の匂うがごとし
本文229ページ
文庫書き下ろし。
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『おんな与力 花房英之介(一)』(鳴神響一・双葉文庫)
『おんな与力 花房英之介(二)』(鳴神響一・双葉文庫)
『おんな与力 花房英之介(三)』(鳴神響一・双葉文庫)
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