『ごんげん長屋つれづれ帖(四) 迎え提灯』|金子成人|双葉文庫
金子成人(かねこなりと)さんの文庫書き下ろし時代小説、『ごんげん長屋つれづれ帖(四) 迎え提灯』(双葉文庫)をご紹介します。
女手一つで3人の子供を育てるお勝を中心に、根津権現門前町の裏店『ごんげん長屋』の住人たちが繰り広げる、人情長屋小説シリーズの第四弾です。
一話完結の連作形式で、長屋周辺で起こった出来事や騒動が綴られていきます。
およしを失った悲しみを乗り越え、日常を取り戻しつつある『ごんげん長屋』。新たな住人も長屋に馴染んで、より絆も深まる中、数年前に捨てた乳飲み子の行方を捜す旗本家の女中が現れる。お勝の下の娘お妙が捨てられた状況と何かと符号する話を聞いたお勝だが、女中はお妙がその乳飲み子だと決めつけて――。くすりと笑えてほろりと泣ける、これぞ人情物の決定版。時代劇の超大物脚本家が贈る、大人気シリーズ第四弾!
(カバー裏の内容紹介より)
文政二年(1819)三月。
お勝が番頭をつとめる質舗『岩木屋』は、根津権現社境内の南端に位置する、神主屋敷近くにあります。
岩木屋に、谷中三崎町の『喜六店』の大工、勘治がやってきました。
「ものは相談だが」
勘治と名乗った大工は、軽く顔を突き出すと、そう切り出した。
「なんでございましょう」
お勝が尋ねると、
「女房を質に入れられるのかどうか、教えてもらいてぇ」
勘治は、お勝の眼を見て真顔で答えた。
(『ごんげん長屋つれづれ帖(四) 迎え提灯』「第一話 貧乏神」P.20より)
「初鰹は女房を質に入れても食え」という、江戸っ子気質を表す言葉がありますが、本当に質入れするわけではありません。
物語でもお勝は、「人はおろか、犬猫や馬などの生き物は預かれないことになっておりまして」と、断りを言います。
とはいえ、心配になったお勝は、女房を質入れしようとした亭主のことが気になって仕方がなく、勘治の長屋を訪ねて、相談に乗ることに……。
「第二話 竹町河岸通り」では、長屋の住人の一人に、人殺しの疑いがかけられて、さあ大変。
ごんげん長屋に、近江の鉄砲鍛冶をしている男がやってきて、騒動になる「第三話 法螺吹き男」。国友村の藤兵衛こと、一貫斎は、山本兼一さんの『夢をまことに』に描かれた、「日本のダ・ヴィンチ」と呼ばれた男、稀代の発明家でもあります。
表題作では、お勝の子どもたちが、ごんげん長屋の新しい住人、お六から、本所七不思議の話を聞いたことから、話が展開していきます。
「さっき、お六さんから聞いた話で、どれが一番怖かったかって言い合ってたのよ」
笑みを浮かべたお琴から、そんな声が返ってきた。
「そしたら、七つの話の中では、三人とも『送り提灯』が一番怖いっていうことになったの」
お妙がそう言うと、幸助は神妙な顔で頷いた。
「『送り提灯』かぁ。どんな話だったかねぇ」
(『ごんげん長屋つれづれ帖(四) 迎え提灯』「第四話 迎え提灯」P.218より)
時代劇の名匠が描く、江戸の長屋に暮らす人々の、こまやかな人情は、暗い道に灯った提灯の灯のように、ほのかに明るく温かく心を照らし、前を向いて生きる勇気を与えてくれます。
ごんげん長屋つれづれ帖(四) 迎え提灯
金子成人
双葉社 双葉文庫
2022年3月13日第1刷発行
カバーデザイン:寒水久美子
カバーイラストレーション:瀬知エリカ
●目次
第一話 貧乏神
第二話 竹町河岸通り
第三話 法螺吹き男
第四話 迎え提灯
本文275ページ
文庫書き下ろし
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『ごんげん長屋つれづれ帖(一) かみなりお勝』(金子成人・双葉文庫)
『ごんげん長屋つれづれ帖(二) ゆく年に』(金子成人・双葉文庫)
『ごんげん長屋つれづれ帖(三) 望郷の譜』(金子成人・双葉文庫)
『ごんげん長屋つれづれ帖(四) 迎え提灯』(金子成人・双葉文庫)
『夢をまことに(上)』Kindle版(山本兼一・文春文庫)