『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 網走サンカヨウ殺人事件』|鳴神響一|徳間文庫
鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし現代ミステリー、『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 網走サンカヨウ殺人事件』(徳間文庫)をご恵贈いただきました。
2021年12月に刊行した『この時代小説がすごい! 2022年版』で、特集2「2016-2021新登場 新進作家の注目作品・シリーズ徹底ガイド」で、今村翔吾さん、赤神諒さんらとともに、鳴神響一さんの作品をガイドしました。
時代小説での活躍もさることながら、『脳科学捜査官 真田夏希』シリーズをはじめとした、警察小説での躍進も目を瞠るものがあります。
警察に所属する個性的な捜査官を主人公にした、いくつかのシリーズを発表し、それぞれが後を引く面白さをもっていて多くの読者を虜にしています。
全国都道府県警の問題点を探れ。警察庁長官官房審議官直属の「地方特別調査官」を拝命した朝倉真冬(あさくらまふゆ)は、旅行系ルポライターと偽り網走に飛んだ。調査するのは、網走中央署捜査本部の不正疑惑。一年前に起きた女性写真家殺人事件に関し不審な点が見られるとう。取材を装いながら組織の闇に近づいていく真冬だったが――。警察小説の旗手によるまったく新しい「旅情ミステリー」の誕生!
(『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 網走サンカヨウ殺人事件』カバー裏の紹介文より)
本書の主人公、朝倉真冬は、京都大学卒で、国家公務員採用総合職試験に合格し、警察庁に入庁し、1カ月前まで刑事局刑事企画課の課長補佐をつとめ、順調にキャリア街道を歩んでいました。
ところが、一昨日、警察庁長官官房審議官の明智光興警視監より、直接命令が下されました。
――網走中央署に開設された捜査本部に不正疑惑があるという情報が入っている。女満別に飛んでくれ。
(『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 網走サンカヨウ殺人事件』P.25より)
明智審議官は、警察庁の新しい試みとして、全国都道府県警の問題点を調査することを考えて地方特別調査官の職を設け、一カ月前に真冬をそのポストに登用し、直属の部下としました。
警察官僚としての檜舞台から下ろされ、組織を離れて一人行動する、流浪の民のような、ノマド調査官をつとめることとなり、その記念すべき最初の仕事が網走行きでした。
「びっくりだよ」
友作も目を大きく見開いた。
「今回は実話ルポ系の会社の仕事で、迷宮入りしかけているそのサンカヨウ殺人事件についての記事を書かなきゃならないんです」
苦しい言い訳を真冬は口にした。(『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 網走サンカヨウ殺人事件』P.45より)
真冬は旅行系のフリーライターと偽って、学生時代に懇意にしてもらっていた、温泉民宿《藻琴山ロッジ》に泊まり、主人の遠山友作には取材と称して情報収集をはじめました。
サンカヨウ(山荷葉)は、水に触れると花びらがガラスのように透明になり、可憐で美しい花で、北海道をはじめ、尾瀬や志賀高原など、本州の冷涼な地域の山奥の湿った土地に生育します。開花すると一週間ほどで散ってしまうことから花を見ることはかなり難しいとも言われています。
去年の夏、サンカヨウの咲いている湿地で、若い女性プロカメラマンが殺された殺人事件が起こりました。
網走中央署に捜査本部が立てられましたが、一年近く経っても捜査に進展がなく、組織内に不正が疑われていていました。
明智審議官からの第一の指示は、その殺人事件の調査でした。
これまでの警察小説では、組織の中にいて、主人公が特異な能力を生かして、所轄内の事件を解決していくものが多かったですが、今回の主人公真冬は、所轄を持たないノマドの地方特別調査官という設定がなんともユニークです。
しかも、屈斜路湖から網走にかけての東オホーツクの雄大な自然と野生の動植物、カニやウニなど海のごちそう、温泉、旅情豊かな舞台で、水を得た魚のように生き生きと躍動する真冬が魅力的で惹きつけられました。
西村京太郎さんが逝去され、テレビの2時間ドラマがめっきり減ってしまい、冬の時代を迎えた「旅情警察ミステリー」に新風を吹き込む新シリーズの誕生。
次はどこの地を真冬が訪れるのか、期待が膨らみます。
警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 網走サンカヨウ殺人事件
鳴神響一
徳間書店 徳間文庫
2022年3月15日初版
カバーイラスト:爽々
カバーデザイン:アルビレオ
●目次
プロローグ
第一章 妖精が住む池
第二章 北辺の写真家たち
第三章 耳奥の痛み
第四章 迷走の果て
エピローグ
本文361ページ
文庫書き下ろし
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『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 網走サンカヨウ殺人事件』(鳴神響一・徳間文庫)
『この時代小説がすごい! 2022年版』(宝島社)
『脳科学捜査官 真田夏希』(鳴神響一・角川文庫)