『浪人若さま 新見左近 決定版(2) 雷神斬り』|佐々木裕一|双葉文庫
佐々木裕一の時代小説、『浪人若さま 新見左近 決定版(2) 雷神斬り』(双葉文庫)を紹介します。
「決定版」とタイトルに入っているとおり、2010年にコスミック・時代文庫で刊行された作品の出版元を変えての再刊行となります。
三島屋のお琴の義理の兄で、左近の幼い頃からの親友、岩城泰徳。甲斐無限流の道場の師範を務める泰徳のもとへ、父雪斎の愛弟子である阿南也八郎が訪ねてきた。郷里の名古屋で道場を開く阿南だが、弟子が父の仇を討つべく姿を消したため、江戸へ捜しに来たのだという。その弟子、辻藤次郎の仇は、信州飯島藩の江戸家老。事情を聞いた左近は飯島藩を探るのだが――。葵一刀流が悪を斬る! 最強の傑作王道シリーズ、決定版第二弾
(『浪人若さま 新見左近 決定版(2) 雷神斬り』カバー裏の紹介より)
本書は、若き甲府藩主徳川綱豊(後の六代将軍徳川家宣)が新見左近と名乗って、市井で悪を懲らしめる、痛快時代小説シリーズの第二弾です。
お峰、実はな、そなたに言っていなかった秘密が、おれにはあるのだ。
おれの正体は、次期将軍の座をかけた争いを避けるために、仮病を使って根津の甲府藩邸に籠っていた、徳川綱豊だ。
(『浪人若さま 新見左近 決定版(2) 雷神斬り』P.7より)
主人公の新見左近は、世間の目をごまかすため、谷中の屋敷に暮らし、五千石の旗本三島兼次の娘お峰と縁談が整えられましたが、ところがお峰が病に倒れて亡くなってしまいました。
お峰には妹・お琴がいました。
父が政敵に敗れて切腹し、両親と屋敷を失った姉妹は、母方の実家である岩城家に引き取られて育てられましたが、今は浅草花川戸で、若い娘たちに人気の小間物屋を営んでいます。
表題作のほかには、第二話の「お琴の危難」がお気に入りです。
「何があった」
「今朝方、その左京屋に押し込みがあったんでさ」
「何、押し込みだと」
「押し込みといっても物取りじゃねえんで。お文が攫われたんでさ。それで、お琴ちゃんは左京屋のお文と幼馴染みだと聞いていたんで、話を聞こうと思って来たら……昨夜は、左京屋に泊ってるっていうじゃねえですか。もう、驚いたのなんの。おまけにまだ帰ってないってんで、こりゃ一緒に攫われたにちげえねえ、となったんです」
(『浪人若さま 新見左近 決定版(2) 雷神斬り』P.112より)
左近のもとに、岡っ引きの治平がやってきて、お琴がかどわかされたという知らせが入りました。
お琴は、若い娘に流行の呉服屋左京屋を営む幼馴染みのお文のところに泊りがけで遊びに行った夜に、何者かに押し込みに入られて、お文ともども、連れ去られてしまいました。
お峰が亡くなって元許婚の妹以上の大切な存在となっている左近は、攫われたお琴を救うために奔走します……。
時代ヒーロー、新見左近が、危難に遭った愛しい人お琴を救出に向かう場面は、ハラハラドキドキが止まりません。
今回もツボを押さえた、勧善懲悪の王道の時代小説を大いに楽しみました。
第四話の「鳴海屋事件」に登場し、左近の敵役をつとめる若年寄石川乗政は、信濃小諸藩初代藩主となった実在の人物ということで、読み終わった後、俄然気になりました。
創作ばかりでなく、時折史実も織り込まれると、時代小説の面白さが倍加するように思われます。
浪人若さま 新見左近 決定版(2) 雷神斬り
佐々木裕一
双葉社、双葉文庫
2022年2月12日第1刷発行
カバーデザイン:長田年伸
カバーイラストレーション:室谷雅子
●目次
第一話 魔薬
第二話 お琴の危難
第三話 雷神斬り
第四話 鳴海屋事件
本文303ページ
本書は2010年12月にコスミック・時代文庫より刊行された作品を加筆訂正したもの。
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『浪人若さま 新見左近 決定版(1) 闇の剣』(佐々木裕一・双葉文庫)
『浪人若さま 新見左近 決定版(2) 雷神斬り』(佐々木裕一・双葉文庫)