『読んで旅する鎌倉時代』|小栗さくら、鈴木英治、阿部暁子、赤神諒、武内涼、松下隆一、矢野隆、鳴神響一、近衛龍春、吉森大祐、天野純希、砂原浩太朗、高田崇史|講談社文庫
現役活躍中の13人の作家による歴史時代小説アンソロジー、『読んで旅する鎌倉時代』(講談社文庫)を紹介します。
毎週、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を観て、楽しんでいます。
鎌倉時代の歴史を知らないため、ドラマから教えてもらうことが多く、同時代への関心の高まりが止まりません。
大河ドラマの放送にあわせて、鎌倉時代を舞台にした歴史時代小説も刊行が相次ぐなかで、今回取り上げるのが本書です。
「小説現代」2022年1・2月合併号に特集として掲載されたものを文庫化したものです。
源頼朝が平家を滅ぼし開いた鎌倉幕府は、濃密な人間ドラマに満ちている。頼朝が北条政子と激しい恋の末に結ばれた伊豆山神社、後に袂を分かつ義経と対面した八幡神社、幕府の崇敬を集めるも実朝暗殺の地となった鶴岡八幡宮。13の地を舞台に、歴史時代小説の手練れが切れ味鋭い筆をふるった。
(本書カバー裏の紹介文より)
本書では、一編が20ページ前後の掌編ながら、頼朝や政子、義時をはじめ、鎌倉殿の時代をつくりあげた人物たちの横顔を、所縁の場所とともに切り取っていて、各作家の個性が光っています。
「我ら鎌倉武士の誰もが、平氏と追討をひたすらに願い、生命を賭け、すべてを捧げて戦って参った、士卒皆の力で勝利を得た。平氏は滅びた。だからこそいまがいちばん危ない」
頼朝は眉間に縦じわを刻んだ。(『読んで旅する鎌倉時代』「鎌倉霊泉譚」P.171より)
「わしは、この鎌倉を、京にも負けぬ堅固なる武家の都とする。もう、関東を田舎とは呼ばせぬ。そのために必要なものは、将軍家と執権家を頂点とし、武家を束ねる盤石の骨組み。そして、法、忠節である――わかったか」
(『読んで旅する鎌倉時代』「ある坂東武者の一生」P.225より)
13人の名手により編まれた短編集は通して読むと、鎌倉という武士たちが熱き血を滾らせた時代が鮮やかに浮かび上がってきます。
時折、ドラマで俳優たちが演じた登場人物のイメージともシンクロし、漠とした人物が親しみ持てるキャラクターに変わっていきます。
大河ドラマの放送にあわせて、同時代を描く歴史時代小説を読むことの効能の一つといえます。
鈴木英治さんの「妻の謀(はかりごと)」では、大庭景親とその妻が描かれていますが、ドラマで演じられた國村隼さんのイメージで眼前に広がり、少し困りました。
本書では、各話の舞台となった場所の地図と写真も収録しています。
久々に三島から修善寺まで旅をしたくなりました。(コロナウイルス感染が下火になったところでのこととなりますが)
読んで旅する鎌倉時代
小栗さくら、鈴木英治、阿部暁子、赤神諒、武内涼、松下隆一、矢野隆、鳴神響一、近衛龍春、吉森大祐、天野純希、砂原浩太朗、高田崇史
講談社 講談社文庫
2022年2月15日第1刷発行
カバー装画:大高郁子
カバーデザイン:赤波江春奈
●目次
伊豆近郊地図
鎌倉地図
人物相関図
執筆者紹介
一樹の蔭 小栗さくら ◆蛭ヶ小島
妻の謀 鈴木英治 ◆三嶋大社
初嵐 阿部暁子 ◆伊豆山神社
恋真珠 赤神諒 ◆真珠院
石橋山の戦い 武内涼 ◆石橋山古戦場
義時の憂鬱 松下隆一 ◆北条氏邸跡
兄の涙と弟の泪 矢野隆 ◆八幡神社/対面石
鎌倉霊泉譚 鳴神響一 ◆銭洗弁財天 宇賀福神社
願成就院の決意 近衛龍春 ◆願成就院
ある坂東武者の一生 吉森大祐 ◆宝戒寺
由比ガ浜の薄明 天野純希 ◆由比ガ浜
実朝の猫 砂原浩太朗 ◆鶴岡八幡宮
修善寺の鬼 高田崇史 ◆修禅寺/指月殿
本文297ページ
初出:小説現代2022年1・2月合併号
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『読んで旅する鎌倉時代』(小栗さくら、鈴木英治、阿部暁子、赤神諒、武内涼、松下隆一、矢野隆、鳴神響一、近衛龍春、吉森大祐、天野純希、砂原浩太朗、高田崇史・講談社文庫)