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「見える兄と聞こえる妹」が幽霊の無念を晴らす人情時代小説

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『損料屋見鬼控え 3』|三國青葉|講談社文庫

損料屋見鬼控え 3三國青葉(みくにあおば)さんの文庫書き下ろし時代小説、『損料屋見鬼控え 3』(講談社文庫)をご恵贈いただきました。
いつも、ありがとうございます!

見鬼(けんき)という霊を見ることができる特殊な能力を持つ兄又十郎と、物の残留思念を聞くことができる能力を有する妹天音が協力して、成仏できない霊を解決する人情霊感小説シリーズの第3弾です。

損料屋(レンタルショップ)の巴屋に地唐紙問屋の藤屋から注文が入った。巴屋の跡取り息子・又十郎が品を届けると、亡くなったばかりの女将の幽霊がいた。又十郎には霊が見えて、物に宿った声が聞こえる妹・天音と二人、江戸では有名なのだ。藤屋には嫁姑問題に絡む思わぬ真相が……。書下ろし霊感時代小説。

(『損料屋見鬼控え 3』カバー裏の内容紹介より)

損料屋とは、損料(賃貸料)をとって品物を貸し出す店で、扱うものは着物や夜具、鍋釜、家財道具など多岐にわたっていました。いわば、江戸のレンタルショップといったところです。

両国橘町にある損料屋巴屋では、奉公人がいないので、十七歳になる跡取り息子・又十郎が丁稚代わりに働いています。

日本橋室町の地唐紙問屋の藤屋から、女将が急に亡くなって弔いを出すことになり、膳と器を十人分借りたいという注文が入りました。

唐紙とは平安時代に中国から渡ってきた装飾性の高い加工紙のこと。中世ごろからは京で、いろいろな装飾が施された和紙として作られるようになり、襖(ふすま)などに用いられました。地唐紙とは、京から下ったものでなく、江戸の地元でできる唐紙の意味です。

 がくがくする足を踏みしめ、又十郎は器の入った風呂敷包みを運んだ。女中頭が眉をひそめる。
「巴屋さん、顔が真っ青ですよ。気分が悪いの?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「休んでいってくだすってもかまいませんよ」
「ありがとうございます。でも、ほんとうになんでもありませんから。……あのう、亡くなられた女将さんはおいくつだったんでしょう」
「五十三です。お医者さんはおそらく心の臓の発作だとおっしゃってました。とてもお元気だったのでまだ信じられなくて……」
 
(『損料屋見鬼控え 3』P.15より)

又十郎が藤屋に注文の品を届けると、台所の壁際に、紫苑色の地色に銀鼠色の亀甲模様の小袖を身にまとった、五十過ぎの女子が正座していました。

又十郎は長屋の幽霊騒ぎをきっかけに、家に憑いている幽霊が見えるようになっていました。しかし、ただ見えるだけで、幽霊と話ができたりはできません。
それに幽霊が怖く、何度遭遇しても慣れることはできません。それでも、思い残しがあってあの世へ行けない幽霊のことをとても気の毒に思い、成仏させてやりたいと考えていました。

そんな又十郎を助けるのは、血がつながっていない十歳の妹・天音で、物に宿った人の思いが聞こえるのです。

二人で幽霊騒ぎを解決したことが読売に書かれたので、『損料屋の見える兄と聞こえる妹』として少し有名になり、霊を成仏させてくれと頼まれることもありました。

又十郎は、六日後に、貸した品を受け取りに藤屋を再び訪れて、まだ幽霊がいるのに気が付きました……。

本書には「「第一話 地唐紙」」の他に、女房を亡くして以来酒浸りの日々を送る刻莨(たばこ)売りを生業とする男の長屋に、ガタガタと震える老人の幽霊が出る話「第二話 雪待」、巴屋の前に幼い男の子が捨てられているのが見つかり大騒動になる「第三話 親子月」と、天音が話し手となり活躍する余話が収録されています。

本書で登場する幽霊たちは、誰かを祟ったり、人に悪さをしたりするわけではなく、この世に未練を残して亡くなったために、天国にも地獄にも行けない可哀そうな身の上の者ばかりです。

又十郎と天音は、幽霊たちに心を寄せ、この世で果たせなかったことを探り出して、解決するために奔走します。それは、幽霊ばかりでなく、この世を生きていく者たちを救います。

今回も読み終えた後、心が満たされてハッピーな気分に浸れました。

こよりさんが描く素敵な表紙装画を見て、今回は雪国の話なのかと思いましたが、旧暦の師走は二十四節季の大寒が含まれ、一年で最も寒い時期で、江戸に大雪が降ってもおかしくないのでした。

損料屋見鬼控え 3

著者:三國青葉
講談社文庫
2021年12月15日第1刷発行

カバー装画:こより
カバーデザイン:鈴木久美

●目次
第一話 地唐紙
第二話 雪待
第三話 親子月
余話 天音の大つごもり

本文219ページ

文庫書き下ろし

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『損料屋見鬼控え 1』(三國青葉・講談社文庫)
『損料屋見鬼控え 2』(三國青葉・講談社文庫)
『損料屋見鬼控え 3』(三國青葉・講談社文庫)

三國青葉|時代小説ガイド
三國青葉|みくにあおば|時代小説・作家 神戸市出身。お茶の水女子大学大学院理学研究科修士課程修了。 2012年、「朝の容花(かおばな)」で第24回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、『かおばな憑依帖』と改題しデビュー。 ■時代小説SH...