『はぐれ又兵衛例繰控(四) 密命にあらず』|坂岡真|双葉文庫
坂岡真(さかおかしん)さんの文庫書き下ろし時代小説、『はぐれ又兵衛例繰控(四) 密命にあらず』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。
南町奉行所で例繰方与力を務める平手又兵衛は、「はぐれ」と呼ばれる変わり者。内勤の町方役人の又兵衛が、奉行所で表立って裁けない悪に対して、陰で密かに懲らしめる、痛快シリーズの第4弾です。
静香というよき伴侶とともに初めて迎えた正月、平手家の門前に鳥追いの女が現れた。おつたと名乗るその女は七年前、無理心中を強いられ苦しんでいたところを、又兵衛の父に救われたのだという。だが父又左衛門が亡くなったのは十一年前。困惑する又兵衛だが、この出会いをきっかけに、父の死の真相をしることとなる――。怒りに月代朱に染めて、許せぬ悪を影裁き。時代小説の至宝、坂岡真が贈る、令和最強の時代シリーズ第四弾!
(『はぐれ又兵衛例繰控(四) 密命にあらず』カバー裏の内容紹介より)
静香を妻に迎え、その両親である主税と亀、四人で迎える正月。
平手家の門前に鳥追いの女・おつたが現れました。七年前に、無理心中で男に殺されかけたところ、又兵衛の父に助けられたといいます。ところが、父又左衛門が無くなったのは十一年前。父の名を騙る者がいたのか? それは何ゆえか?
「毒薬を売った者と偽薬を売った者、両者における罪状のちがいを述べよ」
唐突な試問にも、又兵衛は怯まない。
「毒薬を売った者は引廻しのうえ獄門、偽薬を売った者は死罪の引廻しに処する。これが御定書の定めにござります」
「ふむ、されば、毒薬売りを偽薬売りと取り違えて裁いた類例を述べよ」(『はぐれ又兵衛例繰控(四) 密命にあらず』「密命にあらず」P.123より)
又兵衛は、奉行所内与力沢尻玄蕃に引き合わされた、評定所留役の和久田から、毒薬を売った者と偽薬を売った者の罪状の違いと、取り違えて裁いた類例について尋ねられました。
そして、和久田から、巷で出回っている偽の高麗人参をめぐる探索を命じました。
又兵衛が調べていくと、偽人参の売人であるやくざの親分は、なんと七年前におつたに無理心中を仕掛けた男でした。
過去の因果の糸がつながりはじめ、又兵衛は父の死の真相に近づいていきます。
事件はさらに複雑に絡み合い、「父の執念」の話に続きます。
読後、これまでぼんやりとした存在だった又兵衛の父、又左衛門の姿がはっきりと浮かんできました。
又左衛門の非業の死が、強烈な正義感を持ちながらも、奉行所内ではぐれ者となってしまった、又兵衛の人物形成に大きな影響を与えていたことに気が付きました。
江戸の風俗や社会を物語の中に巧みに取り入れているのがこのシリーズの楽しみの一つですが、今回は年の暮れから正月にかけての江戸の情景が描かれています。
年末に始まる「釣り鐘小僧」の話では、大掃除後に行われる、無礼講の胴上げが出て決ます。奉行所内でも、上役の年番方筆頭与力の「山忠」こと山田忠左衛門が胴上げをされることに。
日頃の言動が災いして高く上に上げて最後は床に落として、鬱憤を晴らしていました。はぐれ者の又兵衛もこの日ばかりは、胴上げを楽しみにしていました。
はぐれ又兵衛例繰控(四) 密命にあらず
坂岡真
双葉社 双葉文庫
2021年11月14日第1刷発行
カバーデザイン:鳥井和昌
カバーイラストレーション:村田涼平
●目次
釣り鐘小僧
密命にあらず
父の執念
本文342ページ
文庫書き下ろし
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『はぐれ又兵衛例繰控(一) 駆込み女』(坂岡真・双葉文庫)
『はぐれ又兵衛例繰控(二) 鯖断ち』(坂岡真・双葉文庫)
『はぐれ又兵衛例繰控(三) 目白鮫』(坂岡真・双葉文庫)
『はぐれ又兵衛例繰控(四) 密命にあらず』(坂岡真・双葉文庫)