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家康最大のピンチ「伊賀越え」に、茂兵衛、絶体絶命の逃走劇

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『三河雑兵心得(七) 伊賀越仁義』|井原忠政|双葉文庫

三河雑兵心得(七) 伊賀越仁義井原忠政(いはらただまさ)さんの文庫書き下ろし戦国小説、『三河雑兵心得(七) 伊賀越仁義』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。

東三河の百姓出身の若者茂兵衛が家康の家臣の足軽となって、戦を通じて出世を重ねていく「三河雑兵心得」シリーズの第7巻。

本能寺の変によって、堺見物をしていた徳川家康も大きな危機が迫ました。
今回は、家康主従の決死の畿内脱出行「伊賀越え」をメインに描いています。

信長、本能寺に死す! 京を脱出した茂兵衛がもたらした一大事に、わずかな供回りのみの家康は、突如、敵地と化した畿内から伊賀を越えて本国三河まで逃げることを決意する。だが、信長の同盟者である家康の首を狙って、後ろからは謀反人の明智軍、前では落ち武者狩りや、天正伊賀の乱の復讐に燃える伊賀者が待ち構えていた。本多平八郎らと共に殿軍についた茂兵衛は、血と泥に塗れながら伊賀路をひた走る。戦国足軽出世物語、天下大乱の第7弾!
(カバー裏の内容紹介より)

物語の主人公で鉄砲大将をつとめる茂兵衛は、本能寺の変に遭遇して、命からがら逃げだし、途中で行き会った本多平八郎に変事をいち早く知らせました。ともに南下し、堺から北上する家康本隊と四条畷の飯盛山で合流しました。

「たァけ! とっとと報告せんか!」
 雷が落ちた。転がるようにして進み出て、主人の前に平伏した。
「京で何があった!?」
 顔に息がかかるほどに、身を乗りだしてきた。大きな怖い目で睨まれた。
「明智日向守光秀が謀反! 本日未明、織田信長様ご宿舎である本能寺を兵一万五千で囲み、本能寺は焼け落ちたそうにございます」

(『三河雑兵心得(七) 伊賀越仁義』P.18より)

ここから、家康主従は、敵地と化した畿内を抜け出して、三河に逃げ帰る、決死の「伊賀越え」が始まります。

一行は、家康主従のほかに、穴山梅雪が率いる十二名を含めても五十人ほど。
一万余りの兵を率いる光秀軍はもとより、前年九月の天正伊賀の乱で織田勢が無慈悲に攻めた伊賀国衆も復讐の機会を狙っています。

そんな中で、落ち武者狩りの百姓衆が出現。
殿軍を買って出た挙句に、途中で別行動をとって京に向かっていた梅雪ら穴山衆が落ち武者狩りに襲われました。
寄騎として監視役として接していた梅雪に親しみを感じていた茂兵衛は、安否を確認に一行を離れました。

今回は、集団での戦闘シーンというよりは、茂兵衛は単身または小人数で、敵地を横断し、逃げて逃げまくり、途中で遭遇する敵を倒すという、冒険小説のようなスリリングな場面の連続に興奮しました。

「逃げるは恥だが役に立つ」を地で行くような家康主従の「伊賀越え」が面白い。

本書を読んでいて、家康が現実のものとして天下を目指したのは、人生最大のピンチである、「伊賀越え」直後のことなのかあと思えてきました。

信長の頸木が外れた家康の元で、雑兵魂あふれる植田茂兵衛がさらなる活躍をし、出世していくところを楽しみにしたいと思います。

三河雑兵心得(七) 伊賀越仁義

井原忠政
双葉社 双葉文庫
2021年10月17日第1刷発行

カバーデザイン:高柳雅人
カバーイラストレーション:井筒啓之

●目次
序章 もう一つの道
第一章 梅雪の不覚
第二章 茂兵衛伊賀越え
第三章 火事場泥棒
終章 新たな暗雲

本文276ページ

文庫書き下ろし

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『三河雑兵心得(一) 足軽仁義』(井原忠政・双葉文庫)(第1作)
『三河雑兵心得(七) 伊賀越仁義』(井原忠政・双葉文庫)(第7作)

井原忠政|時代小説ガイド
井原忠政|いはらただまさ(経塚丸雄)|時代小説・作家 神奈川県出身、神奈川県鎌倉市在住。会社勤務を経て文筆業に入る。 2016年、経塚丸雄のペンネームで『旗本金融道(一) 銭が情けの新次郎』で時代小説デビュー。 2017年、同作で、第6回歴...