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替え玉に親子再会、鉄斎の婿入り話、おけら長屋は騒動花盛り

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『本所おけら長屋(十七)』|畠山健二|PHP文芸文庫

本所おけら長屋(十七)畠山健二(はたけやまけんじ)さんの人情時代小説、『本所おけら長屋(十七)』をご恵贈いただきました。

累計140万部突破という多くのファンをもつ人気シリーズの最新刊第17巻です。
本所亀沢町にある、貧乏長屋「おけら長屋」の住人たちが巻き起こす、笑いと涙の珍騒動を上質の人情喜劇や落語のように楽しめて、刊行が待ち遠しい作品の一つです。

江戸は本所の「おけら長屋」には、ひと癖もふた癖もある店子が揃って騒動の連続だ。廻船問屋を切り盛りする若く美しい女将に気に入られ、鉄斎が婿入りするという噂が流れるが……「はんぶん」。久蔵とお梅の子、亀吉が寒天長屋の子供に怪我をさせたという。目撃者がおらず、それぞれの長屋の住人を巻き込んだ争いに発展し、ついにはお白州に呼び出され……「みなのこ」など、笑いと感動の四編を収録。

(本書カバー裏の内容紹介より)

万造や松吉らが通う酒場三祐の隣で駄菓子屋を営みながら、女手一つで一人息子角太郎を育てるお世津。角太郎は十六、七になりながら、奉公が続かず、喧嘩ばかり。

そんなある日、三祐に、幼い頃に生き別れた母を探しに三河から出てきた木綿問屋の手代作吉がやってきました。
居合わせて話を聞いた万松コンビと八五郎のおけら長屋の面々は、母親探しを安請け合いしてしまいます。

第一話の「かえだま」は、著者が脚本を担当し、2008年に、デン助劇場復活公演「デン助と兵士のジョニー」をもとに書き下ろしたものだそう。

「デン助劇場」は、浅草のコメディアンの大宮敏充さんが主演した軽演劇。
1960年代にはテレビでも放送されました。
大宮さんは、1976年に亡くなられ、2008年の公演では、漫才師の青空球児さんがデン助を演じられたそう。

第二話の「はんぶん」では、蔵前片町の廻船問屋戸田屋で用心棒を務めていた島田鉄斎が、後家の女将お多江に気に入られて、婿入りの噂が流れました。
噂を耳にした、お染は心穏やかではいられません。

「そう。戸田屋さんの親族が言う、よくない噂のおけら長屋ですよ。確かに、おけら長屋は本所でも名代の貧乏長屋です。住んでいるのは、馬鹿で間抜けな者たちばかりです。でもね、旦那の足を引っ張ることなんて、殺されたってしませんよ。おけら長屋の面目ってもんがありますから」
 お染の目からは涙が流れた。
 
(『本所おけら長屋(十七)』「その弐 はんぶん」P.140より)

おけら長屋に誇りと愛情をもっている、お染の言葉にジーンと来ました。

今回、出色の面白さで、いちばんのお気に入りの話が「その参 げんぺい」です。
常陸国大洗磯浜の農家の三男坊として生まれて、ひと旗揚げるために江戸にやって来た若者三平。酒場三祐の主、晋助の一人息子で、看板娘のお栄の従兄弟・源助は、父と喧嘩して家を出て、八年ぶりに江戸へ帰ってきたところ。

二人がひょんなことから出会いますが、田舎者と江戸っ子でやり取りがかみ合わいません。二人のやりとりを聞いていた万造、松吉、お栄は笑い転げるばかり。
そして万松は、二人の名前から「源平」と名付けて、回向院で見世物小屋を興行を行う小屋主に二人を売り込みました。

漫才のような二人の掛け合いの舞台が面白くて面白くて、笑いのツボを押さえた鉄板の構成で、安心して笑えて、最後はジーンときました。

ますます、このシリーズが愛しく思えて、次回作が待ち遠しくなりました。

本所おけら長屋(十七)

畠山健二
PHP研究所・PHP文芸文庫
2021年10月5日 第1版第1刷

装丁:田中善幸
装画:倉橋三郎

目次
その壱 かえだま
その弐 はんぶん
その参 げんぺい
その四 みなのこ

本文293ページ

文庫書き下ろし。

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『本所おけら長屋(十七)』(畠山健二・PHP文芸文庫)

畠山健二|時代小説ガイド
畠山健二|はたけやまけんじ|時代小説・作家 1957年、東京都目黒区生まれ、墨田区本所育ち。 演芸の台本執筆や演出、週刊誌のコラム連載など幅広く活動。 2012年、『スプラッシュ マウンテン』で小説家デビュー。 2013年、『本所おけら長屋...