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仲良しの友のため、献立を考えるおやす。品川宿に颶風迫る

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『あんのまごころ お勝手のあん(四)』|柴田よしき|時代小説文庫・ハルキ文庫

あんのまごころ お勝手のあん(四)柴田よしきさんの文庫書き下ろし時代小説、『あんのまごころ お勝手のあん(四)』(時代小説文庫・ハルキ文庫)を入手しました。

品川宿の老舗宿屋のお勝手で働く、女中のおやすを主人公とした青春時代小説「お勝手のあん」シリーズの第4弾です。

品川宿の宿屋「紅屋」では、おやすが見習いから、台所付きの女中として正式に雇われることとなり、わずかばかりだがお給金ももらえるようになった。最近は煮物も教えてもらえるようになり、また、「十草屋」に嫁いだ仲良しのお小夜さまが、みずから料理して旦那さまに食べてもらえる献立など、毎日料理のことを考えている。そんななか、おしげさんからおちよの腹にやや子がいることを聞いておやすは、日に日に元気がなくなっていくおちよの本音に気づきはじめて――。大好評「お勝手のあん」シリーズ、待望の第四弾!

(『あんのまごころ お勝手のあん(四)』本書カバー裏紹介より)

十六歳のおやすは、弟のような存在だった勘平が紅屋を去り、言いようのない寂しさに囚われていました。
つわりに苦しんでいるちよに食べてもらう瓜の菓子をつくることで、自分を鼓舞していました。

女中のちよは、行方がわからなくなった流れ者の男の子を孕んでしまい、周囲からは中条流でやや子を流すことを勧められて、産みたい気持ちがありながらも、実家を出ている身でひとりで子どもを育てられるわけもなく、悩んでいました。

「おやすちゃんは欲がないよね」
「そんなことないわよ。わたしは欲張りよ」
「ほんとうに?」
「ほんとうよ。やりたいことがいっぱいあるし、ああだったらいいのに、こうならいいのに、と始終思ってる」
「そっか。おやすちゃんは、物は欲しくないけど、望みはたくさんあるんだね」

(『あんのまごころ お勝手のあん(四)』P.29より)

おやすとおちよ、年頃の女の子同士の会話に、等身大の娘たちの心情がビビッドに描写されていき、自然と物語に引き込まれていきます。

ある日、おやすは、旧知の薩摩藩士の信之介と再会し、以前と雰囲気が変わったと言われました。

「いやいや、すみません。脅かすようなことを言って、ただ、あなたはもうどこからどう見ても、紅屋の台所の要人です。その歳で、しかも女人で、なんと素晴らしいことだろう。そしてあなたはそれを誇らしく感じ、期待に応えようと努力を重ねている。そうしたすべてが、あなたを変えていくんですね」
「わ、わたしは……」

(『あんのまごころ お勝手のあん(四)』P.113より)

本シリーズを読み進めていく、おやすが少女から大人に一歩ずつ成長していく様が楽しめます。

利発で骨惜しみしない、素直で愛想もいい、おやすの周りには、料理のことから病気や世の中のしくみまで教えてくれる、素敵な大人たちが登場します。

開国か攘夷か、二つの考え方に引き裂かれていくかもしれない、当時の世相も教えてもらい、異人が船に乗って攻めてきたらと思い、不安になるおやす。

しかし、おやすには他に考えなければならないことがありました。
仲良しのお小夜が旦那さまのためにつくる料理の献立を考えることを約束していました。
「よく噛んでいただけて、噛めば噛むほど美味しいもの」それから「油を使っているのに、油を取りすぎずに美味しくて満足できるもの」。

さて、おやすは、お小夜とその夫・清兵衛のためにどんな料理を工夫してつくるのでしょうか。

最近、日本全国で、暴風雨の被害に遭うことが珍しくなくなってきました。
本書では、品川宿を襲った颶風(ぐふう=熱帯性低気圧。台風のようなもの)が描かれています。

紅屋の人たちは、数年前に安政の大地震を経験してきましたが、今回の災害にどのように立ち向かうのでしょうか。

あんのまごころ お勝手のあん(四)

柴田よしき
角川春樹事務所 時代小説文庫・ハルキ文庫
2021年6月18日第一刷発行

装画:鈴木ゆかり
装幀:荻窪裕司

●目次
一 本音
二 鍋がない
三 新しい味
四 幽霊の想い
五 柳の下
六 決心
七 あぶら焼き
八 女の幸せ
九 颶風

本文303ページ

月刊「ランティエ」2020年10月号~2021年4月号までの掲載分に加筆・修正したもの

■Amazon.co.jp
『お勝手のあん』(柴田よしき・時代小説文庫・ハルキ文庫)
『あんの青春 春を待つころ お勝手のあん(二)』(柴田よしき・時代小説文庫・ハルキ文庫)
『あんの青春 若葉の季 お勝手のあん(三)』(柴田よしき・時代小説文庫・ハルキ文庫)
『あんのまごころ お勝手のあん(四)』(柴田よしき・時代小説文庫・ハルキ文庫)

柴田よしき|時代小説ガイド
柴田よしき|しばたよしき|作家 東京生まれ。 1995年、『RIKO―女神の永遠―』で第15回横溝正史賞受賞。 ■時代小説SHOW 投稿記事 ■著者のホームページ・SNS 柴田よしき@shibatay | Twitter amzn_asso...