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職人佳乃と梅花花魁、女二人が新しい下駄に込めた思いとは

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『梅花下駄 照降町四季(三)』|佐伯泰英|文春文庫

梅花下駄 照降町四季(三)佐伯泰英さんの文庫書き下ろし時代小説、『梅花下駄(ばいかげた) 照降町四季(てりふりちょうのしき)(三)』(文春文庫)を入手しました。

照降町の鼻緒屋の娘で鼻緒挿げの職人佳乃を主人公にした、人情市井小説シリーズの第3弾です。

照降町(てりふりちょう)は、堀江町河岸と小船町河岸の二つの河岸道と日本橋川に面した小網町河岸に囲まれた場所の南側にありました。
下駄、雪駄などの履物屋と傘屋が軒を並べていることから、晴れても雨が降っても商売になる物を売っていた店があることからそう呼ばれていました。

梅の神木を炎から守り抜いた佳乃と周五郎を中心に、復興にむけ動き出す照降町。花魁・梅花から「新しい下駄」の制作を託された佳乃は、大火で命を落とした人々の鎮魂のための催しを思いつき、吉原の会所と旦那衆、職人に協力を願う。7月15日、照降町に前代未聞の光景が広がった――感動に包まれる人波の中、周五郎に不吉な知らせが。

(『梅花下駄 照降町四季(三)』カバー裏の紹介文より)

文政十二年(一八二九)夏。
大火から十数日が経ち、照降町では、燃え残りの家財道具や商品などの片付けが始まり、復旧に向けて動き出しました。

鼻緒屋の見習い職人の八頭司周五郎は、跡片付けの相談と見廻りをする普請奉行役に任じられました。

その周五郎のもとに、豊前小倉藩士で実兄の裕太郎が訪ねてきました。江戸藩邸に戻るように説得されますが、重臣派と改革派の二つに分かれて抗争している藩に嫌気をさして、断りました。

鼻緒挿げ職人佳乃は、避難先の深川因速寺を間借りして、仕事を再開しました。

「おお、見事見事」
 と女物の桐下駄を手にした松蔵が捧げられた鼻緒を子細に見ていった。
「あちらに運ぶと直ぐにはけましょうな。ですが、なにしろどこもが燃えてこの履物を並べる場所がない。地べたに並べる品ではございませんでな」
 と思案する顔をした。
「大番頭さん、荒布橋の袂に宮田屋さんの船を舫って棚を作り、こちらの履物を並べたらどうでしょう」
 
(『梅花下駄 照降町四季(三)』 P.29より)

照降町の大店、下り傘・下り履物問屋宮田屋では、船を仮店にして、佳乃が鼻緒を挿げた下駄や雪駄を並べて船商いを始めることになりました。

「で、佳乃さん、梅花花魁の注文はどんなものですね」
 と伊佐次が聞いた。
「はっきりと申されませんでした。新しい三枚歯下駄は廓で話題を呼ぶような斬新なものにしてほしいのだと思いました。ゆえに梅花さんからこの三枚歯を借りて参りました」
 
(『梅花下駄 照降町四季(三)』 P.114より)

佳乃は、吉原の梅花花魁から、花魁道中で履く三枚歯下駄の注文を受け、下駄職人の伊佐次らに協力を願いながら、「新しい下駄」づくりに取り組んでいきます。

梅花は佳乃に、この梅花の三枚歯下駄を見て、大火事で被災した江戸の人々が一日も早い復旧に向けて頑張ろうと励ます意味を込めたいと注文しました。

佳乃は、どのような新しい下駄を作るのでしょうか。

大火事で家屋敷を消失しながらも、御神木の梅を命懸けで守った佳乃と照降町の人々。
本書では、焼け跡から力強く復興に向けて奮闘していく様が描かれていきます。

大規模災害に見舞われたり、終息の兆しが見えないコロナ禍で疲弊した人たちに、今日を生きる元気と明日に向かう勇気を与えてくれる作品です。

梅花下駄 照降町四季(三)

佐伯泰英
文藝春秋・文春文庫
2021年6月10日第1刷

カバー:横田美砂緒
デザイン:中川真吾

●目次
第一章 復旧の日々
第二章 船商い
第三章 七人の花魁
第四章 芝居話
第五章 花魁道中

本文345ページ

文庫書き下ろし。

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『初詣で 照降町四季(一)』(佐伯泰英・文春文庫)
『己丑の大火 照降町四季(二)』(佐伯泰英・文春文庫)
『梅花下駄 照降町四季(三)』(佐伯泰英・文春文庫)

佐伯泰英|時代小説ガイド
佐伯泰英|さえきやすひで|時代小説・作家1942年、福岡県北九州市生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。1981年、ノンフィクション『闘牛士エル・コルドベス 1969年の叛乱』で、第1回プレイボーイドキュメントファイル大賞受賞。1999年、...