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深川で続く行方不明事件。医者への夢に向け決断をするおいち

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『星に祈る おいち不思議がたり』|あさのあつこ|PHP研究所

星に祈る おいち不思議がたりあさのあつこさんの長編時代小説、『星に祈る おいち不思議がたり』(PHP研究所)をご恵贈いただきました。

この世に思いを残して亡くなった者の姿が見えたり、声が聞こえたりする、不思議な力をもつ娘、おいちがその力を使って、難事件を解決していく「おいち不思議がたり」シリーズの第5作。

おいちは、深川六間堀町の菖蒲長屋で町医者を営む藍野松庵の娘。父のもとで医者の修業をしています。

父のような医者になりたいと願うおいちに、絶好の機会が訪れる。女の医者を育てるための医塾が開かれるというのだ。希望に胸を膨らませ、夢の実現に向けての一歩を踏み出したおいち。
そんななか、深川で立て続けに、謎の行方不明事件が起きる。忽然と姿を消した四人に、共通点は何一つ見つからない――。
事件のことが気にかかるおいちの許に、岡っ引の仙五朗が思いがけない情報を携えてやって来る。この世に思いを残して死んだ人の姿を見ることができるおいちは、仙五朗と力を合わせ、事件を解決に導くことができるのか。
一方、心を寄せ合う新吉との関係も、新たな局面を迎える。おいちは、幸せをつかみ取れるのか。
シリーズ累計25万部突破。人気の「おいち不思議がたり」シリーズ第五弾!

(『星に祈る おいち不思議がたり』Amazonの内容紹介より)

八名川町の紙問屋『香西屋』の内儀で伯母のおうたが、菖蒲長屋のおいちのもとに縁談をもってきました。
相手は深川で一、二を争う大店『新海屋』の跡取り息子でしたが、おいちは話も聞かずにきっぱりと断りました。

そんな話をしているところに、年老いた母親おキネが暴走する荷車を避けようとして転んで、膝に怪我をして血が止まらないと、三十絡みの娘お美津に連れられてやってきました。
おキネがやってくる前から血の臭いを嗅ぎ、言い知れない不安を感じていたおいちは、往診に出ている父の代わりに応急手当てをしました。

おうたは、一つ間違えば死ぬところだった事故の様子を聞き、その荷車の主に文句を言って、薬礼を全部払わせて、見舞金も出させなきゃいけないと憤りました。

「いえそこまでの大店では……。あの、たぶん、『新海屋』さんかと」
『新海屋』、どこかで聞いた覚えがある。おうたがむむっと唸った。
「あら、伯母さん、『新海屋』さんてあの縁談の」
「お黙り。そんなもの知りませんよ。あの話はご破算さ。荷方の躾もできないような店なんて願い下げだね。わかったよ、明日にでもあたしが『新海屋』に話を付けてやる。(後略)

(『星に祈る おいち不思議がたり』P.25より)

おいちには、医学を志して長崎に遊学している実の兄がいました。
二月に一度の割合で文をやり取りし、この国で学べる最も進んだ医術を学び身に付けている兄に大して、羨望と嫉妬する感じ、焦燥感に駆られていました。

その夜、菖蒲長屋の松庵とおいちのもとを、岡っ引の“剃刀の仙”こと仙五朗が訪ねてきました。おいちが応急手当てをして帰した老女、おキネの行方が分からなくなったと言います。

手分けをしておキネを探そうと相談しているとこに、おいちの実の兄、田澄十斗(たずみじっと)が現れました。二年半の長崎遊学を終えて、数冊の帳面と一緒に阿蘭陀のメスを三本を携えて帰ってきました。

 十斗が帳面を包み直す。それを、おいちの前に置いた。
「これは、おいちさんへの土産です」
「え……」
「おいちさん、本気で医学を学びませんか」
「え……」
「おいちさんは、ずっと松庵先生の許で医の道を歩いてきた。一人前の医者として力を身に付けている。きちんと学ぶことで、その力をさらに磨くべきです」

(『星に祈る おいち不思議がたり』P.79より)

江戸に戻ってきた十斗は、松庵の傍で、日々多くの患者と接し、患者と共に生きて、学びたいと松庵に懇願し、弟子入りをしました。

おキネの行方を捜していた仙五朗は、深川で人知れず、三人も行方知らずになっていることをつかみました。失踪した四人に共通点はあるのでしょうか?

おいちは、十斗の紹介で、長崎一の女医者で、『新海屋』に寄宿している石渡明乃が江戸で開く女人のための塾に入門して学ぶことになり、医者としての道が大きく開けました。
そして、おいちは、未来を切り開くために、ある決断をします。

仙五朗親分の力を借り、自身の不思議な力を使った捕物劇を縦糸に、女医者を目指すおいちの成長を描く青春ストーリーを横糸に、織りなす市井人情物語。

星に祈る おいち不思議がたり

あさのあつこ
PHP研究所
2021年6月24日第1版第1刷

装丁:こやまたかこ+川上成夫
装画:丹地陽子

●目次

朝の光
父の心
遠国からの風
夢の色合い
光の人
人と化け物
新たな扉
霧の向こう側
空を仰いで

本文318ページ

初出:月刊文庫『文蔵』2019年7・8月号~2020年12月号の連載「おいち不思議がたり 旅立ち篇」を改題し、加筆・修正したもの

■Amazon.co.jp
『おいち不思議がたり』(あさのあつこ・PHP文芸文庫)(第1作)
『桜舞う おいち不思議がたり』(あさのあつこ・PHP文芸文庫)(第2作)
『闇に咲く おいち不思議がたり』(あさのあつこ・PHP文芸文庫)(第3作)
『火花散る おいち不思議がたり』(あさのあつこ・PHP文芸文庫)(第4作)
『星に祈る おいち不思議がたり』(あさのあつこ・PHP研究所)(第5作)

あさのあつこ|時代小説ガイド
あさのあつこ|時代小説・作家 1954年、岡山県生まれ。青山学院大学を卒業後、小学校講師を経て作家デビュー。 1997年、『バッテリー』で野間児童文芸賞を受賞。 1999年、『バッテリー2』で日本児童文学者協会賞を受賞。 2005年、『バッ...