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数馬は最愛の妻・琴をめぐり、紀州藩主徳川光貞と相まみえる

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『要訣 百万石の留守居役(十七)』|上田秀人|講談社文庫

要訣 百万石の留守居役(十七)上田秀人さんの時代小説書き下ろしシリーズ、『要訣 百万石の留守居役(十七)』(講談社文庫)を入手しました。

加賀藩前田家の若き留守居役、瀬能数馬が、藩の宿老・本多政長から薫陶を受け、各藩留守居役との駆け引きを繰り広げる、人気シリーズの第十七作は、最終巻となります。

「要訣(ようけつ)」と辞書によると、物事の最も大切なところ、のこと。
完結編にふさわしいタイトルと言います。

加賀藩宿老・本多政長の打ち手が奏功し、政長の嫡男・主殿が藩内の地歩を固めた。数馬の妻・琴が、一度離縁された紀州藩の家臣から再嫁を求められる。その裏に潜む意図を思索する数馬に対して、紀州藩主・徳川光貞が、想定外の揺さぶりをかけてくる。数馬の周囲に魔手が! 人気シリーズ、遂に完結。

(『要訣 百万石の留守居役(十七)』カバー裏面の説明文より)

紀州藩主の命で、加賀藩宿老・本多政長の娘で、数馬の妻・琴に、紀州藩の重臣に再嫁を求められました。

藩の留守居役を通じての申し入れを断られると、次は数馬の本家で旗本の瀬能仁左衛門を味方に引き込んで、三日後の菩提寺での法要を理由に数馬を呼び出しました。

当日、数馬の前に現れたのは、紀州藩主徳川光貞でした。

「琴と離縁いたせ」
「お断りいたしまする」
 予想は付いている。数馬は逡巡なく拒絶した。
「そなた、余の命が聞けぬと」
「聞けませぬなあ。権中納言さま」
 数馬をにらみつけた徳川光貞に応じたのは、本多政長であった。
 
(『要訣 百万石の留守居役(十七)』P.64より)

光貞を一蹴したのは、数馬の家士に扮して面談に同席した政長でした。

家康の謀臣本多正信が先祖で、加賀藩筆頭宿老本多政長の存在感が圧倒的です。
「堂々たる隠密」と呼ばれることを厭わず、物事を冷静に透徹し、将軍や老中を相手にしても一歩も引かない、当代一の謀臣であり、千両役者です。

 不意に声を低くした本多政長に、数馬が身構えた。
「留守居役こそ、今の世における」
「……それはっ」
 言われた数馬が驚愕した。
「かつて槍で遣り合った他家との争いが、言葉と仕込みに変わった。そして、他家と最初に交渉するのは留守居じゃ。留守居がこれからの藩を守る謀臣である」
 
(『要訣 百万石の留守居役(十七)』P.51より)

政長から手痛く拒絶された光貞は、天下の謀臣・本多を手に入れるべく、さらに恐ろしいことを企てます。

腹心である薬込役(くすりごめやく)に、数馬を事故か病死に見せかけて殺し、同時に、政長の娘琴をさらってくるように命じました。

薬込役は、戦のとき藩主が放つ鉄炮の準備をする者たちですが、実際は藩主の側に控えて、藩主の命を受けて情報収集を行ったり、自軍が崩れたときには藩主を守り、その場から逃がす役目も担っていました。
武芸はもとより忍びの技にも精通していました。
八代将軍吉宗の時代には、幕臣に編入されて御庭番になりました。

江戸で、金沢で、数馬の周囲に魔の手が迫ります。
本書もハラハラドキドキする仕掛けがいっぱい。

留守居役として藩と藩とのやり取りを経験した数馬を待ち構えているものは?

お気に入りのシリーズが完結するのは、淋しいことですが、いつの日か、百万石を舞台にした続編が始まることを願いつつ、読後の余韻に浸っています。

要訣 百万石の留守居役(十七)

上田秀人
講談社 講談社文庫
2021年6月15日第1刷発行

カバー装画:西のぼる
カバーデザイン:多田和博+フィールドワーク

●目次
第一章 前例の弊害本家の役割
第二章 過去の失策
第三章 絡む思惑
第四章 本多の怒り
第五章 龍虎狐狼
終章
あとがき

本文350ページ

文庫書き下ろし

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『要訣 百万石の留守居役(十七)』(上田秀人・講談社文庫)
『乱麻 百万石の留守居役(十六)』(上田秀人・講談社文庫)

上田秀人|時代小説リスト
上田秀人|うえだひでと|時代小説・作家 1959年大阪府生まれ。大阪歯科大学卒。 1997年、「身代わり吉右衛門」で、小説CLUB新人賞佳作受賞。 2009年、2014年、「奥右筆秘帳」シリーズで、『この時代小説がすごい!』文庫書き下ろし第...