『損料屋見鬼控え 2』|三國青葉|講談社文庫
三國青葉(みくにあおば)さんの文庫書き下ろし時代小説、『損料屋見鬼控え 2』(講談社文庫)をご恵贈いただきました。ありがとうございます!
見鬼(けんき)という霊を見ることができる特殊な能力を持つ損料屋の兄と、物の残留思念を聞くことができる妹が協力して、成仏できない霊を解決する人情霊感小説シリーズの第2弾です。
「見鬼(けんき)」とは例が見える能力。その才を持つ損料屋(レンタルショップ)の息子・又十郎と、声が聞こえる義妹・天音(あまね)のことは江戸でも少し有名に。ある日、家族と死別して巴屋にもらわれてきた天音が、以前に住んでいた長屋に行きたいと言い出した。霊感のある二人が向かってみると……。人気書下ろし時代小説。
(『損料屋見鬼控え 2』カバー裏の内容紹介より)
損料屋とは、損料(賃貸料)をとって品物を貸し出す店で江戸のレンタルショップというようなもの。扱うものは着物や夜具、鍋釜、家財道具など多岐にわたっていました。
十七になる又十郎は、両国橘町にある損料屋巴屋のひとり息子ながら、奉公人がいない小店なので、十七歳なのにまだ丁稚扱いです。
十になる妹の天音は、落雷で親きょうだいを亡くして孤児となり、母親同士が幼なじみという縁で、四カ月前に引き取られてきて、血のつながりはありません。
又十郎は、もともと幽霊の気配を感じる子どもでしたが、今年の春、裏の長屋の幽霊騒ぎのおかげで幽霊が見えるようになってしまいました。
以来、幽霊がらみの事件を解決してくれと頼まれることが多くなり、物に宿る人の思いを聞くことができる天音とともに、読売にも書かれて町の人にも知られるようなりました。
「明日手習いが休みだから、前の長屋へ行ってみたい」
天音の突然の言葉に、又十郎の心ノ臓がぎゅんっと跳ね上がる。酒を飲もうとしていた平助の湯飲みが宙で止まり、お勝も茄子の漬物に箸を伸ばしたまま固まってしまっている。
又十郎と平助、お勝は、無言のまま顔を見合わせた。
ああ、とうとうこの日が来ちまった。いつか天音が言い出すだろうと思っていたのだ。
(『損料屋見鬼控え 2』P.131より)
ある日、天音が損料屋にもらわれてくる前に、一家で暮らしていた深川伊勢崎町の長屋に行ってみたいと言い出しました。
急にできた娘の天音が可愛くて甘々な平助とお勝の両親と、生来無口な天音に懐いてほしくて大甘な兄・又十郎の、巴屋に衝撃が走りました。
天音ひとりを残して皆突然死んでしまったので、親きょうだいには心残りがいっぱいあるのは当たり前で、前の長屋に憑いていても不思議はありませんが、そこに行けば天音が悲しむことは目に見えています。
翌朝、又十郎は天音と一緒に、深川の長屋を訪ねました。
そこで二人が遭遇したものは……。(「第三話 鏡台」)
本書には「第三話 鏡台」の他に、竹細工師が知り合いの形見としてもらった小刀をめぐる人情話を描いた「第一話 藪入り」、天音が通っている手習い所に現れた幽霊をめぐる騒動を描いた「第二話 放生会」の二話と、余話が収録されています。
本書で登場する幽霊たちは、この世に未練を残して亡くなったために、天国にも地獄にも行けない可哀そうな身の上の者ばかりです。
怖がりで幽霊にはなじむことができない又十郎ですが、幽霊たちに心を寄せ、この世で果たせなかったことを探り出して、解決するために奔走します。
そして、この世に残された人たちを救います。
その正義感と優しさに触れ、心が温かくなり癒されます。
読み終えた後、誰かにやさしくしたくなる素敵な物語です。
損料屋見鬼控え 2
著者:三國青葉
講談社文庫
2021年6月15日第1刷発行
カバー装画:こより
カバーデザイン:鈴木久美
●目次
第一話 藪入り
第二話 放生会
第三話 鏡台
余話 天音のないしょごと
本文217ページ
文庫書き下ろし
■Amazon.co.jp
『損料屋見鬼控え 1』(三國青葉・講談社文庫)
『損料屋見鬼控え 2』(三國青葉・講談社文庫)