『サムライ・シェリフ』|戸南浩平|ハヤカワ文庫
戸南浩平(となみこうへい)さんの文庫書き下ろし時代ミステリ、『サムライ・シェリフ』(ハヤカワ文庫)をご恵贈いただきました。
日本家屋の前で障子に持たれるように佇む、カウボーイハットの男が印象的な表紙カバー。ハヤカワミステリのウェスタンものを想起させるデザインにキュンとしました。
著者は、2016年に『木足の猿』で第20回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞したミステリー作家です。
明治11年、女子供まで容赦なく殺害する凶悪な拳銃使いジャック・モーガンが、米国から日本へと逃亡してきたらしい。同心から横浜の刑事へと転身した三崎蓮十郎は、夫を殺害されたエレナ・マイルズと息子チャーリーの要請でモーガンの行方を捜すことになる。しかしその背後には、三崎の亡き父・源兵衛が追い求めていた因縁の猟奇殺人犯、羅刹鬼の影があった。横浜の地にモーガンを追う三崎が辿り着いた、驚くべき真実とは?
(『サムライ・シェリフ』カバー裏の内容紹介より)
一八七八年(明治十一年)、米国カリフォルニア州。
ジャック・モーガンは四人の男たちと、バンダナで顔を隠し、拳銃を手に足音を忍ばせて銀行に入っていきました。ところが、直前に襲撃情報を得ていたシェリフたちに待ち伏せされました。
襲撃戦の末に、モーガンは逮捕しようとした、シェリフのスティーヴ・マイルズを射殺して逃走しました。
スティーヴが上院議員の息子だったため、警察の捜査が厳しくなったことから、モーガンは日本に逃亡を図りました。
三崎蓮十郎は二十九歳。旧幕府時代には父の跡を継いで同心をつとめた後、明治七年に警視庁に入り、ポリスと呼ばれる巡査をつとめていました。
四つ切くらいの紙に、カウボーイハットをかぶった髭面の異国人の顔が写っていた。
顔写真の舌には、〈WANTED〉のアルファベット文字が印刷されていて、日本語で、〈お尋ね者。ジャック・モーガン〉と入っていた。
山内はこちらに向きなおると、ぶ厚い手を背後で組んで話しだした。
「先日、エレナ・マイルズというアメリカ人女性が、チャーリーという六歳の長男を連れて日本へやって来た。何をしに来たかというと、こいつを追いかけてだ」(『サムライ・シェリフ』P.37より)
署長の山内権兵衛に呼び出されて、モーガンという極悪人が日本に潜伏していて、夫を殺された大富豪の娘エレナが息子チャーリーを連れて日本にやって来て、モーガンを早く捕まえるように日本政府に圧力をかけているといいます。
英語がしゃべれる三崎に、モーガンを捕まえる捜査担当を命じました。
しかも、モーガンはアメリカを出る前に、最新式のリボルバー銃コルトM1877を手に入れて、日本にやって来て、「羅刹鬼(らせつき)」と呼ばれる正体不明の極悪人に匿われていると。
「羅刹鬼」は、三崎が長年、捕まえようと追い続けている悲願の敵でもありました。
「なんですか、これは?」
「アメリカのポリスの格好だ。シェリフってやだよ」山内がニンマリとした笑みをみせる。
「それが?」意図がわかりかねた。
「おはんが着てみたら、いいと思ってな」(『サムライ・シェリフ』P.92より)
三崎は、山内署長から、カウボーイハットとガンベルト、ガンホルスターに入った銃と、手のひらにのるくらいの星形をした金属の板を渡されました。
一刻も早くモーガンを捕まえるために、三崎は恥を捨てて、カウボーイの格好で横浜市内を歩き回ります。
サムライ・シェリフの誕生です。
開拓時代のアメリカ西部と文明開化の明治・東京をつなぐ刮目の時代ミステリー。
エレナ、チャーリー母子を守るために奔走する、心優しきサムライ、三崎。
仕込み杖を武器にサムライ・シェリフの三崎は、早撃ちの拳銃使いモーガンに勝てるのでしょうか。
そして、宿敵「羅刹鬼」の正体を解き明かすことができるのでしょうか?
息もつかせぬ活劇の連続で、明治の横浜を舞台にした、和製ウェスタン(西部劇)は展開していきます。
サムライ・シェリフ
戸南浩平
早川書房 ハヤカワ文庫
2021年6月15日発行
カバーデザイン:早川書房デザイン室
●目次
序章 凶弾の夏
一章 WANTED
二章 東西の鬼
三章 今昔の探索
四章 銃と刀す
終章 蜩
本文396ページ
文庫書き下ろし
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『サムライ・シェリフ』(戸南浩平・ハヤカワ文庫)
『木足の猿』(戸南浩平・光文社文庫)