『京都くれなゐ荘奇譚 呪われよと恋は言う』|白川紺子|PHP文芸文庫
白川紺子(しらかわこうこ)さんの文庫書き下ろし現代幻想小説、『京都くれなゐ荘奇譚 呪われよと恋は言う』(PHP文芸文庫)をご恵贈いただきました。
中華ファンタジーライトノベル『後宮の烏』シリーズで人気の著者の最新文庫書き下ろし作品です。現代の京都と長野に舞台にした、呪術ファンタジーです。
蠱師(まじないし)の一族・麻績(おみ)家に生まれた高校一年生の澪は、ある呪いのため、幼い頃より「長野から出るな」と言われて育った。しかし家族に内緒で出かけた京都で邪霊に襲われ、地元の高校生・高良(たから)に助けられる。呪いを解く鍵がこの地にあると考えた澪は、下宿屋「くれなゐ荘」で暮らすことになったが、そこに従兄の蓮も駆けつけ……。高良の正体、そして澪の呪いの秘密とは? 京都を舞台にした呪術幻想譚。
(『京都くれなゐ荘奇譚 呪われよと恋は言う』カバー裏の内容紹介より)
長野県麻績村に暮らす、高校一年生の澪は、幼い頃から黒い陽炎のようなものから、『おまえは二十歳までいきられないよ』と言われ続けてきました。
澪が引き寄せる黒い陽炎のようなものは邪霊で、ふたつ年上の従兄の蓮は、都度、職神(しきがみ)を使って祓いました。
幼い頃に両親を交通事故で亡くした澪は、神社の神主で蠱師をつとめる伯父夫婦に引き取られて、漣と一緒に暮らしていました。
つねづね、伯父から『長野から出てはいけない』と言い聞かされてきた澪は、友人から誘われて夏休みに京都旅行に出かけました。
ところが、現地で待ち合わせた友人と出会えずに、四条大橋周辺で探しているうちに、黒い陽炎に突然襲われました。
悲鳴を呑みこみ駆けだした澪は、いくらも走らぬうちに足がもつれて転んでしまいました。
黒い陽炎は、いつの間に頭髪がほとんど抜け落ち、骨と皮ばかりに痩せこけた老人の姿になり、老人の指が澪の足首に食い込みました。
突然、老人の背中が盛りあがった。みるみるうちにそれはふくらんで、老人の寝巻を破る。頭だった。中年男性の顔だ。頬がこけ、無精ひげがだらしなく伸びている。充血した目がぎょろりとせわしなく動いている。その視線が、澪を見つけてぴたりととまった。老人の肩が隆起して、毛が生える。手はずるずると伸びて、老人の手の上から澪の足首をつかんだ。老人の手はぐしゃりと折れて砕ける。容赦ない力で足首を締めあげられて、澪の口から悲鳴が洩れかけた。
(『京都くれなゐ荘奇譚 呪われよと恋は言う』P.41より)
黒い陽炎に襲われた澪は、地元の高校生・凪高良(なぎたから)に助けられました。
澪は初めて会ったはずなのに、その顔を見た途端、奇妙ななつかしさに胸を貫かれて息がつまってしました。
高良は、陽炎を巻きとるように手中に収めると、黒い石のようなものに変わったそれを無造作に飲みこみました。
――食べた? 邪霊を?
彼の目がふたたび澪に向けられる。
「なんで京都に来たんだ」
冷えた声だった。それでいて、痛みをはらんでいるような声音だった。
なじられているのだと、すこしして気づいた澪は、目をしばたたいた。(『京都くれなゐ荘奇譚 呪われよと恋は言う』P.43より)
自身にかけられた呪いを解く鍵が京都にあると気づいた澪は、二学期から転校して、一乗寺の蠱師の下宿屋「くれなゐ荘」で暮らすことになりました……。
京都に跋扈する邪霊を一手に引き寄せながらも、自身に掛けられた呪いの秘密を解き明かそうと奮闘する澪に引き付けられます。
周りの人たちの助けを借りながらも、自分に秘められた力に気づき、成長していく澪。
そして謎の少年高良とのかかわりも次第に明らかになっていきます。
蠱師と邪霊の戦いをロマンティックに描いて、一気読みさせてくれる、呪術幻想ミステリーです。
作品に描かれた京都市内の北東部、一乗寺から曼殊院、詩仙堂あたりを散策してみたくなりました。
京都くれなゐ荘奇譚 呪われよと恋は言う
白川紺子
PHP研究所 PHP文芸文庫
2021年5月25日第1版第1刷発行
装丁:こやまたかこ
装画:げみ
●目次
鈴を鳴らす者
鉄輪
呪われよと恋は言う
火の宮
本文302ページ
文庫書き下ろし
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『京都くれなゐ荘奇譚 呪われよと恋は言う』(白川紺子・PHP文芸文庫)
『後宮の烏』(白川紺子・集英社オレンジ文庫)