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拝金老中に負けるな、商いの秘訣が詰まった痛快時代小説

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『さんばん侍 麒麟が翔ぶ』|杉山大二郎|小学館文庫

さんばん侍 麒麟が翔ぶ杉山大二郎さんの文庫書き下ろし時代小説、『さんばん侍 麒麟が翔ぶ』(小学館文庫)を入手しました。

江戸の酒問屋に奉公をした、算盤(さんばん)侍の痛快な活躍を描いた『さんばん侍 利と仁』に続く、シリーズ第2弾です。

老中格田沼意次に狙われた酒問屋麒麟屋と田中藩を救うため、駿河国藤枝の蔵元まで急ぐ颯馬と紬。銘酒にも負けぬ美味の藤酔を仕入れなければ、万事休すなのだ。道中、刺客に襲われながらも、なんとか沼津まで辿り着いたふたり。が、目の前には橋から身投げしようとする男が!? 引き止めて話を聞けば、五十両を掏られてしまったというではないか。死んで詫びようとする男に、颯馬は命が大事と、店から預かった手付け金すべてを渡してしまうのだった――。蔵元に着きはしたものの、手ぶらの颯馬はどうするのか? 待ち受ける数々の困難を乗り越えられるのか?

(『さんばん侍 麒麟が翔ぶ』カバー裏面の紹介より)

駿河国田中藩本多家四万石の勘定役見習だった鈴木颯馬は江戸の酒問屋麒麟屋に、武士の身分を捨てて町人として奉公しています。

老中格の田沼意次は、領地が近く、要衝の地、田中藩を乗っ取るため、両替商として藩財政を支えてきた麒麟屋を分散に追い込むことを狙い、次々に悪計を仕掛けました。

そして、店に押し入った盗賊によって、上方の下り酒の新酒を奪われてしまい、颯馬と麒麟屋の五代目店主の妹・紬と、代わりの新酒を仕入れるために、駿河国藤枝宿の蔵元へ向かう道中にありました。

品川宿を抜けてすぐに二人は、五人の刺客に襲われました。

「わたしは、信じるもののために働いている。わたしを助けてくれた人たちへ、恩を返すために戦っているのだ」
「恩返しだと」
「そうだ。信じるに値しなければ、相手が誰であろうと命をかけて立ち向かうまで」
 正眼から一寸の淀みなく八相に構え直す。

(『さんばん侍 麒麟が翔ぶ』P.14 より)

絶体絶命の危機を乗り越えた二人は、沼津宿での手前、狩野川に架かる三枚橋で、一人の若者が欄干に手をかけ、暗い川面を見つめているところに遭遇しました。

若者は、江戸の問屋で商いの手付金として預かった五十両の金を、手前の三島宿で掏り取られてしまい、死んで償おうと思い詰めていました。

「この五十両を持っていってください」
「どうして……」
「それであなたの命が救えるなら、他に選ぶ道はありません」

(『さんばん侍 麒麟が翔ぶ』P.59より)

颯馬は、藤枝宿の酒蔵で新酒を買い付けるための手付金として用意していた金五十両を、見も知らぬ男にすべて渡してしまいました。

「情けは人の為ならず」という言葉が物語の中でも繰り返し出てきますが、それは颯馬(幼い頃の仁吉)が母から身をもって学んだ人生で最も大切なことでした。

本書では、酒問屋麒麟屋の新酒売り出し方法を通じて、販売プロモーションを学んだり、倒産寸前の会社を立て直すためにどのような手を講じる必要があるのかを知ったりできます。

登場人物の一人が「今のままでは、麒麟屋は茹で蛙のようなものです」という言葉にドキッとしました。
ビジネス環境の変化に対応することの重要性を指摘する際に使われることがある、茹でガエルの寓話です。

時代小説の形を借りた、ビジネス入門書としても面白く読むことができます。

著者はプロフィールによると、藤枝市に本社を置く会社の執行役員で、営業革新分野の国内第一人者とのことで、合点がいきました。

さんばん侍 麒麟が翔ぶ

杉山大二郎
小学館・小学館文庫
2021年5月12日初版第一刷発行

カバーイラスト:龍神貴之
カバーデザイン:鈴木俊文(ムシカゴグラフィクス)

●目次
第一章 狩野川の涙
第二章 暮らしを商う
第三章 田沼意次の逆襲
第四章 酒問屋麒麟屋
第五章 思いをひとつ

本文285ページ

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『さんばん侍 利と仁』(杉山大二郎・小学館文庫)
『さんばん侍 麒麟が翔ぶ』(杉山大二郎・小学館文庫)

杉山大二郎|時代小説ガイド
杉山大二郎|すぎやまだいじろう|時代小説・作家 1966年、東京生まれ。 従業員1万人超のIT企業において、経営幹部として販売力強化やセールスプロモーションの統括責任者を務めた後、独立し、コンサルタントとして活躍。SFAやCRMによる営業革...