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雨宮蔵人と咲弥、愛と信念を胸に、再び天下の政争の渦中に

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『影ぞ恋しき(上)(下)』|葉室麟|文春文庫

影ぞ恋しき(上)葉室麟さんの長編時代小説、『影ぞ恋しき(上)(下)』(文春文庫)を入手しました。

本書は、愛する人・咲弥に一首の和歌を捧げるため、命を賭けた男・雨宮蔵人を描いた、『いのちなりけり』『花や散るらん』に続く、三部作の完結編です。

吉良上野介の孫娘・香也を養女にした雨宮蔵人と咲弥夫婦のもとに信州諏訪から密使の冬木清四郎が。かの地に配流された上野介の息子・義周が香也に一目会いたいというのだ。諏訪に出向いた一家は、死期迫る義周に清四郎と香也の婚儀を迫られ、承諾してしまう。時は綱吉治世の末期。一家は再び天下の政争に巻き込まれることに。

(『影ぞ恋しき(上)』カバー裏の紹介文より)

宝永三年(一七〇六)一月。
鞍馬に住む、雨宮蔵人(くらんど)と咲弥夫婦のもとを、吉良家の家人・冬木清四郎が訪れました。信濃諏訪藩にお預けの身となっている吉良左兵衛義周の病が重篤で、蔵人夫婦の養女・香也に一目会いたいので諏訪にお出でいただきたいと。

香也は、義周の養父・吉良上野介の血を引く孫娘で、吉良邸討ち入りの夜、上野介から蔵人に託されていました。

蔵人と咲弥、香也の一家と蔵人の親友で僧侶の清厳は、諏訪に出向きました。

義周は流罪の身ながら、側用人で幕府の実力者柳沢吉保の手の者に、常に見張られていました。

蔵人と香也は清四郎の案内で、高島城南ノ丸に幽閉されている義周の元を密かに訪れ、対面を果たしました。

「かように世話になりながら、申し訳ないが、わたしの願いを聞いてはくださらぬか」
「願いと仰せられますと」
「香也は吉良家の血を引く最後の娘じゃ。できれば香也に婿をとらせて吉良家を再興したい」
 
(『影ぞ恋しき(上)』 P.51より)

義周は、清四郎を香也の婿にして、三年後に娶せてほしいと続けました。
蔵人は、七息思案して、義周の申し出を承諾しました。

七息思案(しちそくしあん)とは、肥前に伝わる武士の心得のこと。いたずらに迷わず、さわやかに凛とした気持ちであれば、決断は七度息をする間にできるといいます。

蔵人一家は、吉良家とのかかわりから、再び天下の政争に巻き込まれていきます。

清四郎の剣の師として、無外流の流祖・辻月丹(つじげったん)が登場します。
池波正太郎さんの『剣客商売』で主人公の秋山小兵衛と大治郎父子が無外流の達人という設定でファンにはおなじみです。

また、柳沢吉保の手の者として、望月千代が率いる歩き巫女〈ののう〉が忍びとして、一家の前に現れます。

  色も香も昔の濃さに匂へども植ゑけむ人の影ぞ恋しき

 古今和歌集にある紀貫之の歌である。色も香りも昔のままに咲き香っている花を見ると、この花を植えた亡き人の面影が恋しく思われる、という故人を慕う歌である。
 
(『影ぞ恋しき(上)』 P.94より)

夫婦の絆、親子の情、友との絆を描き、そして人としていかに生きるべきかを問う、時代エンターテインメント小説が遂に完結します。
しっかりと見届けたいと思います。

影ぞ恋しき(上)(下)

葉室麟
文藝春秋・文春文庫
2021年4月10日第1刷

イラスト:中川学
デザイン:関口聖司

●目次
なし

上巻 本文383ページ
下巻 本文383ページ

単行本『影ぞ恋しき』(文藝春秋・2018年9月刊)を文庫化に際して上下巻に分冊

■Amazon.co.jp
『いのちなりけり』(葉室麟・文春文庫)
『花や散るらん』(葉室麟・文春文庫)
『影ぞ恋しき(上)』(葉室麟・文春文庫)
『影ぞ恋しき(下)』(葉室麟・文春文庫)
『剣客商売 一』(池波正太郎・新潮文庫)

葉室麟|時代小説ガイド
葉室麟|はむろりん|時代小説・作家 1951年1月25日 - 2017年12月23日。 福岡県北九州市小倉生まれ。西南学院大学文学部外国語学科フランス語専攻卒業。 2005年、「乾山晩愁」で第29回歴史文学賞受賞。 2007年、「銀漢の賦」...