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体にも心にも優しい料理と、若者たちの恋模様が気になる

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『お江戸やすらぎ飯 初恋』|鷹井伶|角川文庫

お江戸やすらぎ飯 初恋鷹井伶(たかいれい)さんの文庫書き下ろし時代小説、『お江戸やすらぎ飯 初恋』(角川文庫)をご恵贈いただきました。

本書は、医学館で働きながら医学を学ぶ十七歳の娘・佐保が、体にも心にも優しい料理で人々を癒していく、グルメ時代小説シリーズの第3弾です。

吉原育ちの孤児と思われていた佐保は、大火に遭ったことで失った記憶を取り戻し、水戸藩士の父と再会を果たす。佐保が武家の娘とわかって周囲は戸惑い、多紀家の五男、元堅の嫁候補という噂まで立てられる始末だ。
佐保はこれまで通り、料理と勉学一筋に励もうとするが、ある人の涙に心乱されて――。優しい思い出の味は、辛い過去から人を救うのだろうか。美味しい料理とほのかな恋にときめくグルメ時代小説シリーズ第3弾。

(本書カバー裏の紹介文より)

幼い頃に両親と生き別れて、吉原で育てられた佐保は、病人を癒す料理の才を認められて、多紀家で下働きをしながら医学館で漢方養生を学ぶことを許されていました。

そしてこの夏、再び大火に遭ったことで失っていた両親との記憶が記憶がよみがえり、父・佐島平三郎と再会を果たしました。

佐島は著名な本草学者で、今は水戸藩に仕える武士でした。

父は水戸で一緒に住むことを望みましたが、佐保は病人のための料理人になるという夢をかなえるために、多紀家に下働きとして置いてもらい、医学館の賄い手伝いをしつつ勉学に励みたい、父の願いを断りました。

廓育ちの孤児と思われていた佐保の氏素性がわかったことで、周囲の人たちはとても喜んでくれるとともに、少なからず戸惑いも与えました。

多紀家の大奥さま稀代は、武家の娘として佐保を育てることに。

佐保は、台所仕事が暇なとき、襖越しに授業を聞きます。
その日の名誉教授の立花瑞峰の講義は、薬それぞれの効能と性質についてで、薬の性質を知り、調合しないとかえって身体を傷めることになるという話でした。
佐保流に解釈すれば、薬と同じく食材にはそれぞれ性質があるから、食べ合わせにはよくよく注意が必要ということになります。

学べば学ぶほどに、料理への難しさを感じるようになってきた佐保は、元医師で医学館の賄い方を仕切る田辺耕三郎に、悩みを打ち明けました。

「一つ学べば一つ、二つ学べば二つ賢くなっていく。それが楽しくてしょうがない。だがな」
 と、耕三郎は諭すように佐保を見た。
「それは同時に、知らなかった頃の自分にはもう戻れなくなるということだ。知らずにいれば平気でいられたかもしれない。だが、知ってしまえば畏れが出て当然だ。それでも、そこで立ち止まることもできない。学ぶことは多く、その道は果てしないからね」
 
(『お江戸やすらぎ飯 初恋』 P.30より)

医学館で学ぶ医学生の間では、多紀家の末弟・元堅が佐保を嫁にして医学館を継ぐという噂が駆け巡っていた。
その中で、元堅に縁談がもたらされました。

そのころ、吉原では玉屋の惣領息子颯太は、父で玉屋の主人である山三郎に代わり、焼けた楼閣の建て直しで苦労をしていました。

そんな颯太に、船宿月屋の雇い女・小夜がうるさいばかりにまとわりついていました……。

元堅、颯太、小夜、そして佐保の恋模様が描かれていくのも、今回の読みどころの一つです。

佐保が作る美味しくて、体にも心にもやさしい料理が、読者の心もじんわりと温かくします。
第三話で、肺を病んだ患者のためにつくる、寄せ卵の吸い物は、自分でも大切の人のために作ってみたくなりました。

お江戸やすらぎ飯 初恋

鷹井伶
KADOKAWA 角川文庫
2021年4月25日初版発行

文庫書き下ろし

カバーイラスト:あわい
カバーデザイン:アルビレオ

●目次
第一話 嫁と卵
第二話 理想の殿御
第三話 初恋
佐保の薬膳料理

本文279ページ

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『お江戸やすらぎ飯』(鷹井伶・角川文庫)(第1弾)
『お江戸やすらぎ飯 初恋』(鷹井伶・角川文庫)(第2弾)
『お江戸やすらぎ飯 初恋』(鷹井伶・角川文庫)(第3弾)

鷹井伶|時代小説ガイド
鷹井伶|たかいれい|時代小説・作家 兵庫県神戸市出身。甲南大学文学部卒。漢方スタイリスト。 井上登紀子名義で脚本家として活躍。 2013年より、時代小説を上梓。 時代小説SHOW 投稿記事 決戦の舞台は江戸城。将軍を守るために綱重は剣をとる...