『吉原美味草紙 人騒がせな蟹祭り』|出水千春|ハヤカワ時代ミステリ文庫
出水千春(でみずちはる)さんの文庫書き下ろし長編小説、『吉原美味草紙 人騒がせな蟹祭り』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)をご恵贈いただきました。
料理人になることを目指して大坂から江戸にやってきた、武家の娘・さくら(平山桜子)が、吉原の妓楼・佐野槌屋で働くなかで起こる人情模様を描いた、料理時代小説「吉原美味草紙」シリーズの第3弾です。
三十路になっても艶っぽさのなく色恋に縁遠いといわれるさくらは、妓楼の台所の下働きです。
妓楼の娘たちを支えるため、さくらは今日も工夫を凝らして滋養のある物を作る。だが、先代佐川から名を継ぎ、三代目を名乗るはずの千歳の声が出なくなる事態が起きる。花魁道中を行ない、華々しいお披露目をするはずなのに。さらにさくらの料理の師・竜次の様子がどうにもおかしい。岸和田で武士だったころの何かが関係しているようなのだが……温かな料理で過去の傷も未来の不安も包んでみせる、さくらの料理愛情物語。
(カバー裏の内容紹介より)
吉原随一の佐野槌屋は、大看板の三代目佐川の名前を継ぐお披露目を三日後に控え、華やぎと賑わいを見せる中で、佐川の名を襲名する遊女の千歳の声が急に出なくなる事態が起きました。
気鬱が昂じたせいで、喉がきゅっと締まって声がでなくなったとのことで大騒ぎに。
さくらのおせっかいの虫が騒ぎ、先代の佐川のために作った「葛あん粥」を作って、千歳の元へ運びました。
見世の内は華やぎ、女将や番頭をはじめ、見世にいる男衆――若い者たちの声も明るく響いてくる。福丸がおるいやさくらの足元にじゃれついて邪魔をする。
「ほんまに祭りの前日みたいやな」
竜次が浮き浮きした口調で言った。
「わたしは大坂生まれなので、祭りといえば、天満の天神さんですけど、岸和田では、だんじり祭りがすごいんですよね」(『吉原美味草紙 人騒がせな蟹祭り』P.33より)
本書では、遊女ばかりでなく、さくらの料理の師であり、佐野槌屋の台所を一人で切り盛りする料理人の竜次にも光を当てます。
竜次はさくらに、自身がだんじりの大屋根に乗って、動きの指示をしながら、扇子を持って曲芸みたいにひょいひょい跳んだり、煽ったりして、見ている者をはらはらさせたり笑わせたりした、若い頃の話を聞かせました。
また、岸和田では「蟹祭り」と呼ばれるくらい「渡り蟹」を食べる習わしがあることを懐かし気に話しました。
徐々に明らかになっていく竜次の過去、そして、岸和田を出奔することに至ったある出来事も……。
積年のわだかまりに囚われた竜次の心を、さくらは岸和田ゆかりの想いのこもった一品で解きほぐそうと奔走します。
おせっかいを調味料に、大坂風の味付けが癖になる人情料理小説、美味しいで心を温めます。
吉原美味草紙 人騒がせな蟹祭り
著者:出水千春
ハヤカワ時代ミステリ文庫
2021年4月15日発行
カバーイラスト:中島梨絵
カバーデザイン:大原由衣
●目次
第一話 ぱりぱり甘い玉子素麺
第二話 雪見船で鰤の雪鍋
第三話 へしこの香り
第四話 渡り蟹で蟹祭り
本文291ページ
文庫書き下ろし作品。
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『吉原美味草紙 おせっかいの長芋きんとん』(出水千春・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第1作)
『吉原美味草紙 懐かしのだご汁』(出水千春・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第2作)
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