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江戸でいちばんの大福はこれ!「大福番付」をめぐる騒動記

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『大福三つ巴 宝来堂うまいもん番付』|田牧大和|講談社文庫

大福三つ巴 宝来堂うまいもん番付田牧大和(たまきやまと)さんの文庫書き下ろし時代小説、『大福三つ巴 宝来堂うまいもん番付』を入手しました。

「鯖猫長屋ふしぎ草紙」シリーズでおなじみの著者による、胸キュンの人情時代小説です。

江戸の小さな板元、宝来堂。なじみの番付屋、長助が作った「大福番付」が引き起こした騒動に巻き込まれ、とうとう自分たちで番付を創って売り出すことに。「手に取ったお客さんも、載った店も楽しめる」番付を作るため、皆で知恵を絞った秘策は「大福合せ」。画師・小春の鋭い舌と筆が、宝来堂の窮地を救う!

(本書カバー裏の内容紹介より)

寛永寺と入谷鬼子母神に挟まれた下谷坂本町にある板元「宝来堂」。
先代だった亭主の跡を継いで四年、女主の夕が店を仕切り、摺師兼彫師の政造がただひとりの職人という小さな板元で、もっぱら地味な名所を摺って売っていました。

18歳になる小春は、十歳の時に、二親と弟を火事で失い、叔母・夕の嫁ぎ先、「宝来堂」に引き取られました。
今ではお抱え画師として、小春の描く「一風変わった名所画」は「宝来堂」の名物となっていました。

「宝来堂」の店に、男が飛び込んできました。

「お夕さん、一大事だ」
 店の三和土から、帳場格子へ身を乗りだし、男が訴える。すらりと背が高く、目鼻立ちの整った色男。一見すると、中村座の二枚目役者のようだ。
 夕が、おっとりと訊き返した。
「おや、長さん。今度は、どの番付の摺り直しです。一月前の盆栽、それとも二月前のうどんかしら」
 この男、名を長助といって、歳は二十四、見立番付屋だ。
 
(『大福三つ巴 宝来堂うまいもん番付』P.20より)

気が小さいから誰かに何か言われるとすぐに従ってしまうのか。あるいは、下調べが雑で文句が多くなってしまうのか。長助の番付は摺り直すことが多くありました。

ところが、摺り直した「大福番付」が原因で、長助は菓子屋に追い回されて、挙句に「宝来堂」にも菓子屋の番頭と手代と名乗る強面の人たちがやってきて大騒動になりました。
騒動を機に、「宝来堂」で番付を始めることなりました……。

江戸生まれ江戸育ちの当代主が、どこの菓子屋にも弟子入りせず、自分の才覚だけで菓子作りをはじめ、あっという間に評判をとった、神田佐久間町の「和泉」。

京の出店で、職人を幾人も抱え、大福、羊羹をはじめ、干菓子や茶席に出す誂えの上菓子まで扱っている大店、両国広小路の「竹本屋」。

魚河岸で忙しく立ち働く男たち相手に商いをする屋台の大福屋、清五郎。

客層も店構えも違う三つの菓子屋が、江戸一番の大福の名を賭けて、火花を散らします。
料理人だった父譲りの、隠し味や材料の質を言い当てる小春が、得意の画と神の舌で感じ取ったものを番付に記していきました。

大福をめぐる騒動と、番付作りの過程が面白くて物語に引き込まれていきました。
読んでいるうちに、急激に美味しい大福が食べたくなりました。

大福三つ巴 宝来堂うまいもん番付

田牧大和
講談社・講談社文庫
2021年1月15日 第1刷発行

カバー装画:おぜきせつこ
カバーデザイン:長崎綾(next door design)

目次
嵐の前
一 番付騒動
二 宝来堂、乗り出す
三 札入れ番付
四 和泉の胡椒大福
五 魚河岸の屋台大福
六 札入れ
七 宝来堂の大福番付

本文284ページ

文庫書き下ろし。

■Amazon.co.jp
『大福三つ巴 宝来堂うまいもん番付』(田牧大和・講談社文庫)
『鯖猫長屋ふしぎ草紙』(田牧大和・PHP文芸文庫)

田牧大和|時代小説ガイド
田牧大和|たまきやまと|時代小説・作家 東京都生まれ。 2007年、「色に出でじ、風に牽牛」(刊行時に『花合せ』に改題)で小説現代長編新人賞を受賞してデビュー。 ■時代小説SHOW 投稿記事 『鯖猫長屋ふしぎ草紙(五)』|長屋に忍び寄る女盗...