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幕末から明治へ、三人の生き様を描く。角川春樹小説賞受賞作

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『質草女房』|渋谷雅一|角川春樹事務所

質草女房渋谷雅一(しぶやまさいち)さんの長編時代小説、『質草女房』(角川春樹事務所)を入手ました。

本書は、2020年、第12回角川春樹小説賞受賞作品です。
同賞からは、鈴木英治さん、長谷川卓さん、知野みさきさん、鳴神響一さん、新美健さん、佐々木功さん、今村翔吾さんら、錚々たる方々がデビューし活躍されています。

彰義隊に入った夫に、戦いの前に手元に金が必要だと質屋に預けられた妻・けい。そんな男なのに、けいはひたすら夫を信じ、帰りを待っている。けいに興味を持った貧乏浪人・柏木宗太郎は、質屋から夫の捜索を頼まれ、動乱を目の当たりにしながら逃亡先と考えられる会津へ。その最中、新政府軍の参謀・速水興平と出会い、行を共にすることになるが……。

(本書カバー帯の紹介文より)

江戸時代もどん詰まりの、慶応四年(1868)八月。
金を借りに、本所相生町の質屋・巴屋を訪れた浪人・柏木宗太郎は、巴屋の主人・松ノ助から、店仕舞いをする話を聞きました。
質入れを断られた代わりに、店の後始末を手伝いをすれば手間賃を支払うという提案をされました。

質草を置いたまま行方知れずになった、お客様を捜し出して、預かったものを流しても良いのか、それとも金を返すのか、返事をもらってきて欲しいというものでした。

「はい。捜し出していただきたいお客様からのお預かりしている質草は、その……長年この商売をやっておりますが、このような質草は初めてでして……」
 額に掌を当てた質屋の主は、ため息混じりにいった。「質草というのは、女――それも、とあるお侍様の御内儀なのですよ」
「なんだと……? つまり、自分の女房をこの質屋に預けて、金を借りたやつがいるのか?」

(『質草女房』 P.14より)

勝海舟の尽力で江戸城の開城が完了した日、浪人然とした篠田兵庫と名乗る男が、三名の仲間と共に巴屋を訪れて、彰義隊に身を投じて東征軍との決戦に挑むために、十両の金を借りたいと申し出ました。

彰義隊を騙り、幕府再興の運動費を名目に、商家へのゆすり、たかりも横行していました。篠田たちをその類と見て応対する松ノ助に、十両に見合う質草として置いていったのが、篠田の若妻・けいでした。

けいは、「篠田は生きています……必ず、生きて私を迎えに来てくれるはずです」と自分を質入れした夫のことを信じていました。

三代続く浪人暮らしで、幕府にも、薩長にも義理はないという宗太郎は、金のために、松ノ助の依頼を受けて、篠田の行方を探しはじめます。

やがて、奥羽越列藩同盟と新政府軍の戦いが繰り広げられる会津へと向かいます。

江戸っ子の気質を説明する言葉に、「初鰹は女房を質に入れても食え」とありますが、本当に女房を質屋に入れる侍がいるとは。

着想外の設定に物語の世界にグイグイ引き込まれていきます。

質草女房

渋谷雅一
角川春樹事務所
2020年10月18日第一刷発行

装画:比古地朔弥
装幀:芦澤泰偉

●目次
【一】質草女房
【二】捜し人
【三】新政府軍参謀・速水興平
【四】道連れ
【五】会津
【六】瑞雨
【七】質屋・巴屋
【明治十年晩夏】

本文229ページ

第12回角川春樹小説賞受賞作品「すっきりしたい」を改題の上、大幅に加筆・修正をしたもの。

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『質草女房』(渋谷雅一・角川春樹事務所)

渋谷雅一|時代小説ガイド
渋谷雅一|しぶやまさいち|時代小説・作家1960年、東京生まれ。2020年、「すっきりしたい」で第12回角川春樹小説賞受賞し、同年、受賞作を改題した『質草女房』で単行本デビュー。時代小説SHOW 投稿記事amzn_assoc_ad_type...