『千里をゆけ くじ引き将軍と隻腕女』|武川佑|文藝春秋
2021年3月1日から3月末日の間に、単行本(ソフトカバー含む)で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2021年3月の新刊(単行本)」を掲載しました。
今月は、文藝春秋から刊行される、武川佑さんの『千里をゆけ くじ引き将軍と隻腕女』を紹介します。
著者は、2016年、「鬼惑い」で第1回「決戦!小説大賞」奨励賞を受賞し、2017年に甲斐武田氏を描いた書き下ろし長編歴史小説『虎の牙』でデビューしました。2018年、同作で、第7回歴史時代作家クラブ新人賞を受賞されています。
峠で茶屋の給仕をする娘・小鼓は、ある日すべてを失うことになる。
都から来た高僧・青蓮院義圓(のちの義教)が、故郷坂本の町を焼き払ったのだ。
義圓は小鼓の父を追って、坂本までやってきたらしい。
なぜしがない足軽にすぎない父の命が狙われるのか? しかも父は「良兼」という小鼓の知らぬ名前で呼ばれていた。
義圓が父に向って刀を振り下ろす寸前、小鼓は父の前に飛び出した――。
その後の意識は小鼓にはない。目を覚ました小鼓は、左の肩から先を失っていた。あのとき腕を切り落とされてしまったのだ。
なぜ私が腕を失わなければならなかったのか? 父親は何者なのか? この腕でどうやって生きていけばいいのか。
小鼓は、突如としてこの世の理不尽の渦に巻き込まれることになる。
だが、途方に暮れる小鼓が生き残る道を探る中で、父に手ほどきされた軍略の才能が自らにあることに気づく。
そうだ、誰も助けてくれないのなら、私は与えられたこの「力」で私を助ける!
小鼓は自らの力で戦場を渡り歩きながら父の謎を追い、そしてその謎の解明が、義圓への復讐心を育てていく……。(『千里をゆけ くじ引き将軍と隻腕女』Amazon内容紹介より)
著者は、デビュー作の『虎の牙』に続き、第二作長編『落梅の賦』でも、武田信玄の腹違いの弟、武田六郎信友と一族衆筆頭、穴山梅雪という、甲斐武田家の武将を描いています。
そして、三作目の本書で選んだのは、室町時代最大のトリックスター、くじ引き将軍・足利義教です。
義教は、三代将軍足利義満の子として生まれ、青蓮院に入り、天台座主をつとめる高僧から還俗して、将軍位に就きました。
その際に、石清水八幡宮で籤が引かれて、四人兄弟の中から後継に決まったことから、「くじ引き将軍」と呼ばれました。
気鋭の作家がどのような物語を紡ぐのか、隻腕の娘とくじ引き将軍の対比も面白く、食指が動く一冊です。
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『千里をゆけ くじ引き将軍と隻腕女』(武川佑・文藝春秋)
『虎の牙』(武川佑・講談社)
『落梅の賦』(武川佑・講談社)