『源氏五十五帖』|夏山かほる|日本経済新聞出版
夏山かほるさんの長編歴史時代小説、『源氏五十五帖』(日本経済新聞出版)を入手しました。
2019年、『新・紫式部日記』で第11回日経小説大賞を受賞してデビューした著者の受賞第一作です。
平安時代、藤原道長が権力を握っていたころを舞台にした王朝文学ミステリーです。
菅原道真五世の孫の官人、菅原孝標の娘・更級は、石山寺の僧都殺しのかどで捕らえられた父の無実を、入道摂政・藤原道長に直訴する。道長は孝標の罪をぬぐいたければ、源氏「五十五帖」を見つけてこいと命じる。ともに命を受けたのが女房で、紫式部の娘・賢子。田舎で父が与える物語に耽溺して育った更級と、都育ちで忙しい母にかまってもらえなかった賢子。紫式部の在りし日の縁をたずねる旅で、二人を待っていた意外な人物とは……。
(本書カバーの紹介文より)
寛仁元年(1017)十二月。
菅原道真の末裔で、従五位下前上総介の菅原孝標(すがわらのたかすえ)は、石山寺の僧都殺しの嫌疑をかけられて検非違使に捕まりました。
菅原道真五世孫にあたる、孝標の娘更級(さらしな)は、無実の父を救うために、時の権力者の入道摂政こと藤原道長に直訴をします。
藤原道長は、平安時代一条帝のころ、藤原氏を統べる氏長者で、位人臣を極め、娘たち三人とも后に上らせ、摂政と太政大臣をつとめた後出家し、入道摂政と称されていました。
「入道摂政さまの御下命とは、いかに」
「源氏の物語、第五十五帖を探して参れ」
にわかに信じがたい命令だった。
その場には、何か言葉を発すると、たちどころに災いが降りかかるような沈黙が満ちた。更級は、聞き間違いかと考えあぐね、おそるおそる答えた。
「畏れながら、源氏の物語は、全部で五十四帖にござります」(『源氏五十五帖』 P.21より)
紫式部が著した「源氏物語」は、桐壺から始まり夢浮橋まで全五十四帖です。
ところが道長が言うには、紫式部は秘かに五十五帖を書き残したらしいと。
父を救いたいなら、ひと月後の酉の日までに、その五十五帖を持って参れと言い渡しました。
その場に居合わせた、女房として道長の屋敷に仕える紫式部の娘、賢子(けんし)にも、更級と一緒に五十五帖を探すようように命じました。
「源氏物語」幻の最後の一帖をめぐって、王朝文学を代表する才女二人の探索が始まります。
実は、平安時代は時代背景や史実がよくわからず、歴史上の人物たちも似たような名前で区別がつきづらく苦手です。
「更級日記」はもとより、「源氏物語」も通して読んだことがなく、興味を持って最後まで読み進められるか懸念を抱えながら、本書を手に取りました。
心配御無用。
「更級日記」の著者・菅原孝標女(むすめ)と、紫式部の娘で百人一首に名を残している歌人大弐三位(賢子)が幻の「源氏物語」を捜索を命じられる探偵役という設定が面白く、知的好奇心をくすぐりながら、冒険と謎解きに満ちた物語の世界に誘われます。
源氏五十五帖
夏山かほる
日本経済新聞出版
2021年2月10日第1刷
装幀:芦澤泰偉
装画:大竹彩奈
題字:田中孝道
●目次
なし
本文254ページ
書き下ろし。
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『源氏五十五帖』(夏山かほる・日本経済新聞出版)
『新・紫式部日記』(夏山かほる・日本経済新聞出版)