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明治の鉄道黎明期に起こる怪事件に、元八丁堀同心が挑む

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『開化鉄道探偵』|山本巧次|創元推理文庫

開化鉄道探偵山本巧次(やまもとこうじ)さんの長編歴史ミステリー小説、『開化鉄道探偵』(創元推理文庫)を入手しました。

本書は、明治十二年、鉄道黎明期に起こった怪事件に、元八丁堀同心と鉄道技手見習が挑む、明治探偵小説です。

著者は、現代のOLが江戸時代にタイムスリップして事件捜査にあたる『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』シリーズで知られている作家です。
あとがきによると、鉄道会社に長年勤務されているサラリーマンでもあり、長年の鉄道ファンとのこと、本作品への期待が否が応でも高まります。

明治12年。鉄道局技手見習の小野寺乙松は、局長・井上勝の命を受け、元八丁堀同心の草壁賢吾を訪れる。「建設中の鉄道の工事現場で不審な事件が続発している。それを調査してほしい」という依頼を伝えるためだった。日本の近代化のためには、鉄道による物流が不可欠だと訴える井上の熱意にほだされ、草壁は快諾。ところが調査へ赴く彼らのもとに、工事関係者の転落死の報が……。

(本書カバーの紹介文より)

明治十二年八月。
元八丁堀同心の草壁賢吾は、鉄道局局長井上勝に呼び出されて、新橋駅駅長室に技手見習の小野寺乙松と一緒にいました。

賢吾は明治維新まで、北町奉行所で若いのに腕利きという評判の定廻り同心でした。
ところが薩長を牛耳っている新政府への出仕を固辞し、神田相生町の長屋で気楽な浪人生活を送っています。

薩長が牛耳っている警察は動かず、高給取りのお雇い外国人も信用できないと、賢吾に白羽の矢が立ちました。

井上は賢吾に、京都から大津まで鉄道を延ばす工事中のトンネル工事の現場で、何者かによる妨害工作が立て続けに起こっていて、その犯人を捜し出してほしいと依頼しました。

「我々は殖産興業と喧しゅう旗を振っちょるが、近代国家として生きることを選んだ以上、それしか道はないんじゃ。造船にせよ紡績にせよ農業にせよ、産業ちゅうのは人の体に譬えたら、筋肉であり臓腑じゃ。筋肉も臓腑も、血管を通して血が流れんかったら、忽ち止まってしまう。止まれば、人は死ぬ。産業が止まれば、国は死ぬ。鉄道ちゅうのは、まさしく国を生かすための血管であり、血流なんじゃ」
 井上は、どうだわかるか、と迫るように草壁の目を覗き込んだ。草壁が応じて頷いた。
「よし。では聞くが、君は自分の血管を他人に任せようなどと思うのか」
「いや……思いませんね」

(『開化鉄道探偵』 P.31より)

井上は、鉄道は英国人の発明した技術だが、フランスもアメリカもプロシャも、みんな鉄道の技術を自国のものにして生かしている、日本にそれができないわけはないといい、軍艦の建造や条約の改正に並ぶ国家の一大事だと語りました。

草壁は井上の話に納得をして、依頼を受諾しました。
そして鉄道には全くの素人という賢吾に対して、江戸生まれで御家人の子で、鉄道の仕事が好きだという小野寺を助手に付けると言いました。

二日後、三人には東京を出発し、現場に向かいました……。

本書の巻頭に、物語の舞台となった、明治13年、逢坂山トンネル開通時の路線図が掲載されていました。
歴史にも詳しい鉄道ファンなら既知の常識かもしれませんが、知らなかったことで物語への関心がさらに深まりました。

本書では、「日本の鉄道の父」と呼ばれる、工部省鉄道局局長井上勝が登場し、明治の黎明期の鉄道事情が詳述されていて、鉄道ファンならずとも興味深く読み進められます。

長州藩に生まれた井上は、幕末に養子に出ていて野村弥吉と名乗っていました。
伊藤俊輔(博文)、井上聞多(馨)、遠藤謹助、山尾庸三と幕末にイギリスに留学して「長州ファイブ(長州五傑)」の一人です。

開化鉄道探偵

山本巧次
東京創元社・創元推理文庫
2021年2月12日初版

カバーイラスト:アオジマイコ
カバーデザイン:大岡喜直(next door design)

●目次
第一章 最後の八丁堀
第二章 逢坂山
第三章 十四尺の洞門
第四章 鉄道嫌い
第五章 火薬樽
第六章 一触即発
第七章 特別臨時急行
第八章 大物登場
第九章 発破用意
第十章 トンネルを守れ
第十一章 一枚の切符
第十二章 ただ鐵の道を行く
あとがき
解説 香山二三郎

本文325ページ

単行本『開化鐵道探偵』(東京創元社・2017年5月刊)を改題し、文庫化したもの。

■Amazon.co.jp
『開化鉄道探偵』(山本巧次・創元推理文庫)
『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』(山本巧次・宝島社文庫)

山本巧次|時代小説ガイド
山本巧次|やまもとこうじ|時代小説・作家 1960年、和歌山県生まれ。中央大学法学部卒業。 鉄道会社勤務の会社員。 2015年、第13回「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉となった『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』でデビュー。 2018...