『お助け裏同心 重蔵組 奇跡の剣』|山田剛|コスミック・時代文庫
山田剛(やまだたけし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『お助け裏同心 重蔵組 奇跡の剣』(コスミック・時代文庫)をご恵贈いただきました。
本書の主人公、五十坂重蔵(いそさかじゅうぞう)は、五十三歳。
四年前に、北町奉行所の元例繰方同心を退き、今は隠居の身です。
跡を継いだ一人息子の官兵衛を三年前に亡くし、妻の結衣と二人暮らし。
実家に戻った嫁久美が時折、連れてくる官兵衛の一粒種、孫娘の桃と会うのが一番の楽しみです。
普段はどこにでもいるような初老の男ですが、ひとたび事件に向かうと、頭も切れて、剣も人も使える、「重蔵組」を率いる頭となります。
かつて幾多の未解決事件を処理し、凄腕の例繰方同心として知られた五十坂重蔵――。そんな重蔵が隠居したのち、信頼に足る仲間、すなわち元密偵の富五郎、髪結いのお紺、蘭方医の新船隼人を集めて結成したのが、町の噂の「重蔵組」である。義理深くて責任感が強く、ついでに剣術使い、となれば人々がほうっておくはずはない。相談や陳情に江戸っ子がひっきりなしに重蔵の元を訪れるのであった。
重蔵組の信念は、九分九厘間違いないと推定されても、一厘の真実が残されているならば、それを見つけ出してやること。たとえ相手が大名家でも容赦はなし! 鋭い探索力と切り裂く剣で、一度は解決したと思われた事件に挑み、まさかまさかの奇跡を呼び起こす!!
(本書カバー帯の紹介文より)
重蔵は、正義感が強く人情に厚い性格から、仲間たちとと「重蔵組」を結成して、奉行所が扱わない事件で困っている人たちに救いの手を差し伸ばします。
町歩きで深川の七福神巡りを堪能した重蔵は、長慶寺の境内で、毒をあおって死んでいる若い男を見つけました。
重蔵は、北町奉行所定町廻り同心の春木三十郎を、現場に呼び出し、亡骸を預け、事件を委ねました。
その二日後、亡くなった男の妻・早苗が重蔵を訪ねてきました。
夫は、亀高藩江戸屋敷お出入りの見習医師織田秀介で、自ら命を断つような人ではないと身を乗りだすようにして訴えました。
「春木様から五十坂様にご相談するようにと、ご紹介を受けたものですから」
早苗は詫びるような声で言い添えた。
「わかった。今少し詳しく話を聞かせてくれぬか」
「春木様がこのように言われました。織田は微禄とはいえ大名家の家臣の身、事件は、早晩、北町奉行所の手を離れる。事件解明まで関わることはできないだろうから、この後は五十坂様にご相談申し上げ、力になってもらうようにと、そのような助言をいただいたのでございます」(『お助け裏同心 重蔵組 奇跡の剣』 P.31より)
大名家の家臣にまつわる事件は、町奉行所の裁量の外にありますが、事件に関われぬことを無念に思っているだろう、同心春木が、重蔵に助けを求めるように早苗に勧めたことを、重蔵は素直にうれしく思い、早苗の話を聞きます。
「私はこのままでは駄目になる、人として駄目になる。私は医者だ。今私がしているのは医者のすることではない。血も涙もない鬼畜の仕業だ……」
(『お助け裏同心 重蔵組 奇跡の剣』 P.32より)
亡くなる前に思い詰めていた織田が早苗に吐露した言葉を聞き、詳しく事件を調べることなりました。
御脈料(診療代)千両という天下の名医、人気者の湯屋の三助(湯屋で働き、入浴客の背中を流す者のこと)、と三題噺のように、事件は展開します。
「重蔵組」の痛快な人助けに気分がすっきりする、連作人情時代小説の第2弾です。
お助け裏同心 重蔵組 奇跡の剣
山田剛
コスミック出版・コスミック・時代文庫
2021年2月25日初版発行
カバーイラスト:チユキクレア
●目次
第一話 命の値段
第二話 仇討ちの罠
第三話 行合坂の奇跡
本文278ページ
文庫書き下ろし
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『お助け裏同心 重蔵組』(山田剛・コスミック・時代文庫)(第1弾)
『お助け裏同心 重蔵組 奇跡の剣』(山田剛・コスミック・時代文庫)(第2弾)