『三河雑兵心得(五) 砦番仁義』|井原忠政|双葉文庫
井原忠政(いはらただまさ)さんの文庫書き下ろし戦国小説、『三河雑兵心得(五) 砦番仁義』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。
村を飛び出した若者茂兵衛が徳川家康の家臣の足軽となって、戦を通じて出世を重ねていく「三河雑兵心得」シリーズの第5巻です。
「時代小説SHOW」では、ここ数年、1月に前年度の時代小説ベスト10を【文庫書き下ろし】と【単行本】に分けて発表しています。
2020年時代小説【文庫書き下ろし】部門第1位は、井原忠政さんの「三河雑兵心得」シリーズです。
シリーズ最新刊である本書の刊行を心待ちにしていました。
長篠の戦いで、ついに宿敵・武田を破った織田徳川連合軍。勢いをかって、遠江から武田勢の一掃を狙う家康だが、常に浜松衆や東三河衆ばかりが先陣を任されることに不満を募らせる西三河衆は、嫡子・信康を担ぎだし不穏な動きを見せていた。そんな揺れる家中をよそに、武田側の拠点である高天神城への補給路の寸断を命じられた茂兵衛は、森に籠って荷駄隊への襲撃を指揮することに。野に伏し山に伏して好機を待つが、ある日、間者と思しき男たちに捕らえられる。戦国足軽出世物語、権謀術数の第5弾!
(カバー裏の内容紹介より)
天正三年(1575)六月一日。
長篠設楽原での激戦から十日が経ち、徳川家の今後の方針を議論するため、徳川の軍制を支える浜松衆、吉田衆(東三河衆)、岡崎衆(西三河衆)が一堂に会する拡大軍議が浜松城で開催されました。
家康のもとで浜松城詰める、旗本先手などで構成される浜松衆。
吉田城を居城とする筆頭家老酒井忠次に率いられた東三河衆。
岡崎城に居る家康の嫡男松平信康の付家老である石川数正に率いられた西三河衆。
このとき、茂兵衛は、義弟の松平善四郎が頭を務める先手弓組の筆頭寄騎として、浜松衆に所属していました。
合戦では先鋒を務めることが多い浜松衆と東三河衆に対して、いつも後詰めとされる西三河衆は、へそを曲げ強い嫉妬を感じていました。
徳川家というと、家臣団が一枚岩のように家康を強力に支えているイメージがありましたが、このとき、大きな対立の芽をはらんでいました。
ある日、武田方の二俣城攻略に従軍していた松平善四郎と茂兵衛は、家康に呼び出されました。
「ワシの耳には様々な話が入ってくる。岡崎城は平穏無事というのもあれば、明日にも兵を出して東に走り、浜松城を囲みそうな勢いという話もある……要は分からん。ただ、西三河衆に不満が溜まっておることだけは確かなようじゃ」
「で、拙者への御用向きは? 拙者は、なにを致せばよろしいのでしょうか?」
不安を覚えた若者が、蚊の鳴くような声で質した。家康が微笑を返した。
「や、話がちと迂遠に過ぎた。では率直に言おう。おまん、岡崎城に戻る気はないか?」(『三河雑兵心得(五) 砦番仁義』P.70より)
かつて信康の小姓を務め、勘気を蒙り浜松に逃げてきた善四郎に対して、家康は間者や隠密の真似事をしろと迫りました。
涙声で必至に断りを言う善四郎に対して、家康は代わりに西三河衆の有力者の妹との縁談と褒美を提案しました。
信康と西三河衆の存在が気になりつつ、興味深く物語に入っていけます。
本書では、大きく膨れ上がっていく家康と信康の対立を、家臣の視点から描いていきます。
徳川家の伸長にあわせて、次々に襲い掛かってくる危難を乗り越えて成り上がっていく、足軽・茂兵衛(植田茂兵衛)の痛快な活躍を大いに楽しみたいと思います。
三河雑兵心得(五) 砦番仁義
井原忠政
双葉社 双葉文庫
2021年2月13日第1刷発行
カバーデザイン:高柳雅人
カバーイラストレーション:井筒啓之
●目次
序章 徳川軍議
第一章 反攻、北遠江
第二章 信康という男
第三章 東遠州の山賊
第四章 足軽大賞植田茂兵衛
終章 切腹
本文307ページ
文庫書き下ろし
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『三河雑兵心得(一) 足軽仁義』(井原忠政・双葉文庫)(第1作)
『三河雑兵心得(二) 旗指足軽仁義』(井原忠政・双葉文庫)(第2作)
『三河雑兵心得(三) 足軽小頭仁義』(井原忠政・双葉文庫)(第3作)
『三河雑兵心得(四) 弓組寄騎仁義』(井原忠政・双葉文庫)(第4作)
『三河雑兵心得(五) 砦番仁義』(井原忠政・双葉文庫)(第5作)