『騎虎の将 太田道灌 上・下』|幡大介|徳間文庫
幡大介(ばんだいすけ)さんの長編時代小説、『騎虎の将 太田道灌 上・下』(徳間文庫)を入手しました。
先日、『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』を読んで、鎌倉公方家についてざっくりと歴史がわかりかけてきて、室町時代の関東に興味が湧いてきましたきた。今は、本書を読むのが楽しみでなりません。
本書の主人公、太田道灌は、江戸城を築いた人物として知っていましたし、「山吹伝説」についても読んだことがありましたが、その有能な武将ぶりについてはあまり知りませんでした。
道灌は、山内上杉家とともに、鎌倉公方家の老職である関東管領を務める扇谷上杉家の家宰(家政を取り仕切る筆頭重臣)の家・太田家の嫡男として生まれました。
幼名・鶴千代丸、長じて資長(すけなが)と名乗りました。
小さい頃に見たテレビ「新八犬伝」で、「かんとうかんれい、おうぎがやつさだまさ」のフレーズが今でも耳に残っていますが、その扇谷(上杉)定正もこの物語に登場します。どのように道灌と関わっていくのか、興味津々です。
著者は、NHK時代劇になった、文庫書き下ろしの『大富豪同心』シリーズで活躍されていますが、『真田合戦記』シリーズなどの歴史大河小説も発表されています。
関東公方家はもはや滅亡し、坂東の差配は関東管領たる上杉一門が担っていた。その一翼、扇谷上杉家の家宰が太田家だ。太田家の跡取り・資長(後の道灌)は、関東の支配権を巡り勢力を二分する大戦乱のさなかで、合戦の戦略にも在地経営にも突出した才覚を現わしていく。道灌は、いかに戦い、いかに生き延びたか。坂東を席巻した出来星武将の波瀾の生涯を描き尽くす戦国歴史大河小説!
(本書上巻カバー裏紹介より)
物語は、永享十二年(1440)、鶴千代丸(後の資長、道灌)が数え十歳(満八歳)から始まります。
父の資清は、口を開けば屁理屈ばかりで子供とは思えぬ、鶴千代丸の曲がった性根を矯めようと、部屋を仕切る障子(襖)を示して、障子は真っ直ぐであるから倒れずに立っていられて、閉じたり開いたりができて、人の役に立つと教え、人も性根が直ならばこそ人として立ち行き、役にも立つと説教しました。
ところが鶴千代丸は、屏風を上からご覧になられことがあるかと尋ね、折れ曲がっているから立っていられて、真っ直ぐになるまで伸ばしてしまったら、屏風は倒れてしまうと応えました。
父は子の答えに啞然とした後に、呵々と大笑いし、息子の英才ぶりを愛でていました。
安王丸が、居並ぶ武者たちを見回しながら、朗々と声を放った。
「身はただ今より征夷将軍となった。将軍の名において、関東の天地を騒がす逆臣、山内上杉安房入道憲実、扇谷上杉弾正少弼持朝を退罰する! 亡父、持氏の仇を討つ!」
子供の声と思いがたい大音声であった。武士たちは威に打たれ、次には拳を突き上げて奮い立った。
「応ッ、上杉安房入道、討つべし!」
「上杉弾正少弼、討つべし!」
「両上杉を討ち果たし、関東の天地を旧に復すべし!」(『騎虎の将 太田道灌 上』P.22より)
同じ頃、常陸加茂社では、鎌倉公方足利持氏の遺児・安王丸が征夷将軍を名乗り、蜂起の報せを聞きつけた武士団が集まりました。総勢二万の大軍は、下総国の結城城に入場しました。
上下巻で1000ページを超える超長編ながら、多彩な人物が登場し、場面展開がスピーディーで、リーダビリティがあって、一気読みできそうです。
関東の大乱の中を疾駆した驍将の生涯をたどり、戦国の合戦絵巻の世界に浸りたいと思います。
騎虎の将 太田道灌 上・下
幡大介
徳間書店 徳間文庫
2021年1月15日初刷
カバー装画:「紙本著色結城合戦絵詞」部分 国立歴史民俗博物館所蔵
カバーデザイン:鈴木俊文(ムシカゴグラフィクス)
上巻
●目次
第一章 万人恐怖
第二章 将軍のいない国
第三章 曙光
第四章 江ノ島合戦
第五章 関東管領謀殺
第六章 分倍河原の戦い
第七章 関東二分
第八章 江戸城築城
本文525ページ
下巻
●目次
第九章 二人の関東公方
第十章 扇谷上杉家の失脚
第十一章 山吹問答
第十二章 入京
第十三章 応仁の乱
第十四章 景春と盛時
第十五章 虎の挙兵
第十六章 都鄙和睦
第十七章 騎虎の春秋
解説 北上次郎
本文522ページ
単行本『騎虎の将 太田道灌 上・下』(徳間書店、2018年1月刊)を文庫化したもの
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『騎虎の将 太田道灌 上』(幡大介・徳間文庫)
『騎虎の将 太田道灌 下』(幡大介・徳間文庫)
『大富豪同心 八巻卯之吉放蕩記』(幡大介・双葉文庫)
『真田合戦記 幸綱風雲篇』(幡大介・徳間文庫)
『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』(秋山香乃 、荒山徹、川越宗一、木下昌輝、鈴木英治、早見俊、谷津矢車・PHP研究所)