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大坂一の伊達男が、大店の相続争いで将軍吉宗相手に大勝負

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『悪玉伝』|朝井まかて|角川文庫

悪玉伝朝井まかてさんの長編時代小説、『悪玉伝』(角川文庫)を入手しました。

本書は、元文四年(一七三九)に起こった、大坂の大店・辰巳屋の相続をめぐる騒動を描いた、長編小説です。

著者は、2018年、本作品で、第22回司馬遼太郎賞を受賞されています。

大坂の炭問屋の主・木津屋吉兵衛は風雅を愛する伊達男。家業を顧みず放蕩の限りを尽くしていたところ、兄の訃報が舞い込む。生家の大店・辰巳屋に駆けつけた吉兵衛は、店を我が物にしようと企む大番頭の策略で相続争いに巻き込まれた。次第に泥沼化する訴訟は徳川吉宗や大岡越前守の耳に入る事態にまで発展。吉兵衛は大坂商人の意地をかけた大勝負に挑むが……。
歴史エンタメの頂点にして、第22回司馬遼太郎賞受賞作!

(本書カバー裏紹介より)

元文四年(一七三九)、仲間たちと夜遅くまで遊んで寝過ごした日に、木津屋吉兵衛のもとに、実兄で生家の大店・辰巳屋の主・久左衛門が亡くなったという報せが届きました。
吉兵衛は放蕩の限りを尽くして、木津屋の身代を傾け、久左衛門にも借銀を重ねていて評判の悪い弟でしたが、兄弟仲は悪くありませんでした。

そのため、跡目相続も済んでいない歳若い養子の乙之助の後見となって、辰巳屋を支えようと、弔いの場に乗り込みました。

ところが、気弱な乙之助の代わりに、大番頭の与兵衛が通夜を仕切り、闖入者のように吉兵衛を邪魔者扱いをしました。

「木津屋さん、この際、はっきりお訊ねさせてもらいます」
 無言で見返す。
「あんさん、よもや若旦那さんの後見人のおつもりや、おませんやろうな」
「阿呆らし」
 吉兵衛は肩を揺らし、笑い声を立てた。
「乙之助はまだ十六、しかも養子やで。実の娘の伊波も口数の少ない、おとなしいおなごや。辰巳屋の血筋の者が後見を務めてやらんで、どないする。自明の理やないか」
「それはなりまへん」
 与兵衛が大声で言葉尻を遮った。
「大番頭とはいえ、言葉が過ぎるぞ」

(『悪玉伝』P.60より)

木津屋吉兵衛が生家に入り込んで弔いを仕切り、相続人の後見をする。そんなことを許したら、いずれ己の権勢が殺がれ、ひょっとして、大番頭の座から追われるかもしれないと、疑念を抱えたて、何か後ろ暗いことを進めている与兵衛。

「与兵衛のその筋書、気に入った。つき合うたろうやないか」と吉兵衛は対決を心に決めました。

木津屋の稼業は炭問屋ですが、ここ数年は商いを古参の手代にまかせ、吉兵衛自身はもっぱら学問と風雅に身を入れ、男伊達ぶりで遊興にふけり、遊蕩三昧で身代を大きく傾けていました。
しかも、島原の遊郭の禿(かむろ)を五百両地下で身請けし、後妻に据えるという、やりたい放題でした。

とても褒められた人間ではない、というか、トンデモナイ人物ですが、何故か憎めないキャラクターです。

大坂を震撼させ、江戸の幕閣を巻き込んだ「辰巳屋騒動」を描いた作品には、松井今朝子さんの『辰巳屋疑獄』があります。

一人の奉公人の視点から描かれていて、読み比べてみるのも一興で、おすすめします。

悪玉伝

朝井まかて
KADOKAWA 角川文庫
2020年12月25日初版発行

装画:黒川雅子
カバーデザイン:岡田ひと實(フィールドワーク)

●目次
第一章 満中陰
第二章 甘藷と桜
第三章 白洲
第四章 鬼門
第五章 依怙の沙汰
第六章 辰巳屋一件
第七章 波紋
第八章 弁財天

参考文献
解説 高島幸次(大阪大学招聘教授)

本文445ページ

単行本『悪玉伝』(KADOKAWA・2018年7月刊)を文庫化したもの。

■Amazon.co.jp
『悪玉伝』(朝井まかて・角川文庫)
『辰巳屋疑獄』(松井今朝子・ちくま文庫)

朝井まかて|時代小説ガイド
朝井まかて|あさいまかて|時代小説・作家 1959年、大阪府生まれ。甲南女子大学文学部卒業。 2008年、『実さえ花さえ』(のちに『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』と改題)で第3回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞してデビュー。 2014年、『恋歌...