『駕籠屋春秋 新三と太十』|岡本さとる|講談社文庫
岡本さとるさんの文庫書き下ろし時代小説、『駕籠屋春秋 新三と太十』(講談社文庫)を入手しました。
「取次屋栄三」「剣客太平記」「居酒屋お夏」などの人気時代小説シリーズをもつ、著者の最新文庫書き下ろしシリーズです。
主人公がイケメン駕籠舁き(かごかき。江戸のタクシードライバー)という設定がユニークで面白く、どのような痛快人情話が繰り広げられるのか楽しみが尽きません。
江戸の町を駆け廻る美男の駕籠舁き・新三と太十。悩みを抱えた客が駕籠に一度乗れば、二人のお節介で心が晴れると評判だ。ある日、武家屋敷近くで瀕死の若侍を助けた二人は、大名家の騒動に巻き込まれ……。若侍の志に心打たれた駕籠舁きの思わぬ行動とは? 優しさと爽快感が心に響く人情時代小説開幕!
(カバー裏面の説明文より)
時は文政二年十一月。
人形町の“駕籠留”に新三と太十という二人の駕籠舁きがいました。
共に二十八歳で、この店で働き始めてまだ半年にもならないのに、主人の留五郎が誰よりも目をかけている駕籠舁きです。
二人共、体は鋼のごとく引き締まっていて、一対の金剛力士像を思わせます。
新三は顔立ちがすっきりとしていて男振りもよく、少し洒脱で弁も立ちます。
太十は目鼻立ちが大作りで、一見いかつい風情が漂うが、話はもっぱら新三に任せて、いつもにこやかにしているのが、頼り甲斐をを覚えます。
二人に駕籠を貸与し、担がせてみると、客たちの評判もよく、今ではちょっと気の張る相手には新三と太十を充てることにしていました。
その日の客も、ちょっとばかり気を張らなければならない大事な客。
聖天の直次郎という、人に知られた男伊達(やくざ者)でした。
まだほんの少し乗っただけでしたが、新三と太十の駕籠は、これまで乗ったどの駕籠よりも乗り心地がよく、走り具合も調子がよく感じられました。
親分肌を自認する直次郎は、二人を自分が引き上げてやりたくなり、二人の夢を聞きました。
「しがねえ駕籠舁きでございますが、あっしも太十も男でございますからねえ、二人共夢は持っております」」
畏まってみせた。
「うん、そうだろうん。二人を見ていると何か大きな夢を抱えているような、そんな気がするのよ」
「二人共、同じ夢でございます」
「二人で成し遂げようと言うんだな。そうこなくちゃあいけねえや」
(『駕籠屋春秋 新三と太十』P.30より)
駕籠舁き稼業が好きで堪らない、これからも駕籠を舁いていたい、世話になった人へ恩返ししたい、という二人に、直次郎はますます興味をもち、舎弟にしたくなりました。
タクシーのドライバーとお客のひと時のドライブの間に起こるドラマを描いた映画が昔ありましたが、本書では連作形式で、新三と太十の舁く駕籠に乗った客との短い物語を描いていきます。
美男でマッチョな新三と太十が、駕籠舁きとして職業上の分をわきまえて客を立てながらも、悩みを抱えた客にお節介を焼く、気配りの加減が絶妙です。
脚本家にして人情時代小説の名手である著者が生みだした新しいヒーローの、優しさと爽快感が心に響きます。
駕籠屋春秋 新三と太十
岡本さとる
講談社 講談社文庫
2021年1月15日第1刷発行
カバー装画:イズミタカヒト
カバーデザイン:大岡喜直(next door design)
●目次
一 男伊達
二 月が出た
三 駕籠屋剣法
本文284ページ
文庫書き下ろし。
■Amazon.co.jp
『駕籠屋春秋 新三と太十』(岡本さとる・講談社文庫)
『取次屋栄三』(岡本さとる・祥伝社文庫)
『剣客太平記』(岡本さとる・時代小説文庫)
『居酒屋お夏』(岡本さとる・幻冬舎時代小説文庫)