『天下一のへりくつ者』|佐々木功|光文社
佐々木功(ささきこう)さんの長編歴史時代小説、『天下一のへりくつ者』(光文社)をご恵贈いただきました。
著者は、織田信長の重臣ながら謎が多い、滝川一益の波乱の生涯を描いた「乱世をゆけ」(単行本刊行時に『乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益』改題)で、2017年に第9回角川春樹小説賞を受賞してデビューされています。
『慶次郎、北へ 新会津陣物語』、『織田一の男、丹羽長秀』、『家康の猛き者たち 三方ヶ原合戦録』と、戦国時代の武将たちを描いた作品を続けて発表している、気鋭の歴史時代小説家です。
前田慶次郎をはじめ、武勇に優れながらも、出世や権力争いから外れたアウトサイダーに光を当ててきました。
天正十八年(一五九〇)、北条家当主・氏直とその家臣たちは、小田原城にて連日評定を行っていた。天下のほぼ全てを手中におさめた豊臣秀吉の大軍勢に城は囲まれ、北条家の命運は今や風前の灯火。誰もが策を見いだせず諦めかける中、亡き北条氏康の寵臣にして小田原一のへんくつ坊主侍・板部岡江雪は動き出す。
舌先一つでコロリと人を動かし、奇縁を生み出し、天下をひっくり返す! これが戦国最後の秘策だ!!
(カバー帯裏面の説明文より)
本書の主人公は、板部岡江雪(いたべおか・こうせつ)という、北条氏康・氏政・氏直の三代に仕えた重臣です。
伊豆国生まれで、幼き頃より寺で修行していたところ、その能筆を氏康に見いだされ、右筆として取り立てられました。氏康は、江雪の筆のみならず、その弁才と博識を愛し、重臣板部岡康雄の養子とし、その遺領と与力の侍衆を継がせました。
氏康に愛された江雪ですが、主君だからと遠慮せずにずけずけとものを言う口の悪さから氏政には敬遠されて厄介払いされていました。
しかし、織田信長が勢力を伸ばした天正という激動の時代は、板部岡江雪という奇人の力を必要としていました。
天正十八年(1590)五月、北条氏政と氏直が籠城する小田原城は豊臣秀吉率いる未曾有の大軍に包囲されて、絶体絶命の状況でした。
「爺の全身全霊で、お屋形様に天下を取らせましょうぞ」
二人、目を合わせると、弾けるような笑みで頷く。
氏規もまた笑う。なんだか、愉快だ。もう笑うしかない。
笑えば、自分のことが小さく思えてきた。
この奇人のへりくつを聞いていると、本当に天下が取れる、そんな気になっていた。
(『天下一のへりくつ者』P.66より)
夜半、江雪は若当主、北条氏直に本丸主殿の奥書院に呼び出されました。そこには、韮山城を抜け出してきた氏政の弟、氏規もいて、三人で密議を交わしました。
天下一のへりくつ者、江雪は、その智謀と口舌で、絶体絶命の北条家を救うことができるのでしょうか。
江雪は後に国宝となるほどの名刀、左文字(さもんじ)を腰に帯びていたことでも知られています。左文字は抜かれるのでしょうか、刀剣ファンならうずとも気になるところです。
天下一のへりくつ者
佐々木功
光文社
2021年1月30日初版第1刷発行
装幀:坂野公一(welle design)
装画:獅子猿
●目次
序章 天正十七年二月、沼田裁定
一章 小田原城
二章 策士二人
三章 秘策、成る
四章 決行
五章 関ヶ原
本文339ページ
本書は書き下ろしです。
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『天下一のへりくつ者』(佐々木功・光文社)
『乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益』(佐々木功・時代小説文庫)
『慶次郎、北へ 新会津陣物語』(佐々木功・時代小説文庫)
『織田一の男、丹羽長秀』(佐々木功・光文社)
『家康の猛き者たち 三方ヶ原合戦録』(佐々木功・時代小説文庫)