『新・口中医桂助事件帖 志保のバラ』|和田はつ子|小学館文庫
和田はつ子さんの文庫書き下ろし時代小説、『新・口中医桂助事件帖 志保のバラ』(小学館文庫)をご恵贈いただきました。
前作『口中医桂助事件帖 さくら坂の未来へ』で、幕末の江戸を離れて、最新の口中医療を学ぶために、妻志保と親友の鋼次家族と米国に旅立った口中医(江戸の歯医者さん)の桂助。
本書は、その続編となります。
ファンの一人として、桂助とその仲間たちに再会できるのが何よりも楽しみです。
アメリカで最新の口中医療を学んだ藤屋桂助は、妻の志保、親友の鋼次家族とともに明治の日本に帰ってきた。帰国の船上、乗客の一人が何者かに殺害され、鋼次の妻・美鈴が高熱に倒れるが……。桂助が解き明かした真相とは! 〈いしゃ・は・くち〉に戻った桂助のもとに、旧知の仲間たちが事件の相談もあって相次いで訪れる。痛まない治療のために必要な、麻酔薬の入手が難しいことに悩む桂助。そんな時、将軍職を退いた徳川慶喜が、かつての家臣渋沢栄一を連れて治療にやってくる。東京を舞台に桂助が大活躍する、「口中医桂助事件帖」シリーズ待望の続編が登場!
(カバー裏面の説明文より)
歯科のある医院で働きながら研鑽を積ませてくれるという話で、アメリカ人の仲介業者に安くない金を払ってアメリカに渡った、桂助と妻の志保、親友の鋼次夫婦。アメリカで桂助たちを待っていたのは恐るべき待遇でした。
桂助らは、病院の事務長兼現場主任に騙されて、奴隷同然の使用人としう扱いとなり、勉学とは疎遠の、住み込みの使用人以下の仕事や雑用に一日中追われていました。
桂助の神業のような抜歯術といくつかの幸運が重なり、待遇は劇的に改善さされて、歯痛で苦しむ多くの異国の人たちを救うことができました。
しかも、診療対価を得てお金を貯めることができ、院長夫婦の援助もあって、最新鋭の足踏み式虫歯削り機を入手して、豪華客船で帰国することが叶いました。
その船には、欧米で人気の日本人曲芸師富士山太郎一座が同乗していました。
夕食の席で、一座の女手妻師の大山かじ花が変死しました。
船主の指示を受けた船長から、推理が得意で身辺で起きた事件を解決してきた桂助が探偵役として事件を解決するように依頼されました。
「どうして死んだかなんてわかるものかね?」
年配のやや太り気味の船長は胡散臭そうに桂助を見ている。
「皆さんの前では申し上げませんでしたが、首筋に針の穴のようなものがありました。これはただの虫刺されか何かで、病で亡くなった可能性は皆無ではありません。けれども、そうではない可能性もあります。ですので、もう少し、状況を調べなければ何とも断定できません」
「まさか、乗客の誰かに殺されたとでも?」
(『新・口中医桂助事件帖 志保のバラ』P.31より)
鮮やかな手並みで船上での殺人事件を解決した桂助らは、いよいよ横浜に到着しました。そこで、鋼次家族とは別れてた桂助と志保は、蒸気機関車と人力車を乗り継いで、湯島聖堂近くのさくら坂にある〈いしゃ・は・くち〉に帰ってきました。
最新の歯科の技を取得して、救いの神、足踏み式虫歯削り機を持ち帰った桂助ですが、文明の利器を恐れる人がまだ多い明治の東京で、痛くない歯科治療で、人々に笑顔を届けることはできるのでしょうか。
桂助の帰国を知って、旧知の仲間たちも事件の相談に相次いで訪れます。
幕末から明治初期の歯科診療事情にも触れることができる、ミステリーシリーズの楽しみな再開です。
新・口中医桂助事件帖 志保のバラ
和田はつ子
小学館 小学館文庫
2021年1月9日初版第1刷発行
カバーイラスト:安里英晴
カバーデザイン:山田満明
●目次
第一話 望郷さくら坂
第二話 志保のバラ
第三話 彼岸花
第四話 寒竹の筍
あとがきに代えて
本文325ページ
文庫書き下ろし。
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『新・口中医桂助事件帖 志保のバラ』(和田はつ子・小学館文庫)
『口中医桂助事件帖 さくら坂の未来へ』(和田はつ子・小学館文庫)