『西郷の首』|伊東潤|角川文庫
伊東潤さんの長編歴史小説、『西郷の首』(角川文庫)を入手しました。
本書は、大久保利通を暗殺した島田一郎と、西南戦争で自刃した西郷隆盛の首を発見した千田文次郎。二人は、元加賀藩士で、竹馬の友でした。
二人は、激動の幕末維新をどのように生き、死んでいったのでしょうか。
友はずっと友だ。それではは忘れるな――。血なまぐさい事件が相次ぐ幕末。百万石の加賀藩は、対立する攘夷派と開国派の狭間で大きく揺れていた。足軽の島田一郎と千田文次郎は互いに支え合いながら、熾烈な戊辰戦争を生き抜く。明治になると、一郎は反政府活動家に、文次郎は軍人にと正反対の道を歩むようになるが……。武士は何のために生き、何のために死ぬのか。激動の時代を正面から描いた、著者渾身の傑作歴史小説。
(カバー裏面の説明文より)
物語は、元治元年(1864)四月、加賀藩主・前田斉泰の世子・慶寧の上洛を控えている時期から始まります。
当時の加賀藩は、藩政を牛耳る主流派の御表方が唱える鎖港攘夷論と、世子の慶寧の側近をつとめる若手藩士が多数を占める開国貿易論に二分されていました。
十七歳になる島田一郎と一つ上の千田文次郎は、ともに加賀藩の足軽でした。
加賀藩の身分制度は厳格で、足軽は下級家臣、徒士身分の下に位置する最下層に近い身分でした。
「そなたはどう思う」
一郎は文次郎に水を向けた。
「何のことだ」
「決まっておるではないか。この多難な時代に、わが加賀藩はどうすべきかだ」
「それは、われらの考えることではない。われら足軽が意見を持ったところで、何にもなら」
「そんなことはない。もはや、そういう時代ではないのだ」
(『西郷の首』P.12より)
加賀藩が創設した西洋式兵学校の壮猶館で砲術稽古方手伝となった一郎は、時代の空気に影響されて、尊王攘夷派に共感を抱いていました。
小野派一刀流の剣の遣い手でもある文次郎は、学問好きでないうえに、奉行所の使い走りをつとめているだけで時世の変化に疎くなっていました。
直情のうえに短気ですぐ他人と衝突する一郎と、身分制度に従順で養母を養うことを第一に考える文次郎は、竹馬の友として、これまで幾度となく口論やつかみ合いをしてきました。
二人の漢(おとこ)の熱いドラマを、500ページを超える圧倒的な筆力で描いていきます。
本書の解説は、『西郷隆盛の首を発見した男』(文春新書)を書いた大野敏明さん。このノンフィクションも読んでみたくなりました。
西郷の首
伊東潤
KADOKAWA 角川文庫
2020年11月25日初版発行
カバー絵:早川松山『鹿児島征討一覧』(部分) 国立国会図書館蔵
カバーデザイン:大武尚貴
●目次
プロローグ
第一章 蓋世不抜
第二章 鉄心石腸
第三章 気焔万丈
第四章 擲身報国
エピローグ
解説 大野敏明(ジャーナリスト)
本文556ページ
単行本『西郷の首』(KADOKAWA・2017年9月刊)を加筆修正のうえ、文庫化したもの。
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『西郷の首』(伊東潤・角川文庫)
『西郷隆盛の首を発見した男』Kindle版(大野敏明・文春新書)