『三河雑兵心得 足軽仁義』|井原忠政|双葉文庫
井原忠政さんの文庫書き下ろし歴史時代小説、『三河雑兵心得 足軽仁義』(双葉文庫)を紹介します。
戦国時代、三河の農民の子に生まれた茂兵衛が雑兵となって、戦乱の世を生き抜いていく波瀾万丈の戦国時代小説シリーズの第1作です。
最新作である第4作の『弓組寄騎仁義』が面白かったので、昨年末に1作目より読み直しました。
時は戦国、所は三河。喧嘩のはずみで人を死なせ、村を出奔した十七歳の茂兵衛は、松平家康の家来である夏目次郎左衛門に拾われる。折しも、家康と一向宗の三ヶ寺が対立、両者は一触即発の状態にあった。本来なら鉄の結束を誇る家康家臣団にも一揆側に走る者が相次ぐなど由々しき事態となっている。そして、熱心な一向宗門徒である次郎左衛門もその一人であった。武士人生ののっけから、立身出世どころか国主に弓を引く謀反人になってしまった茂兵衛。波乱の世に漕ぎ出した新米足軽の運命やいかに!? 戦国足軽出世物語、いざ開幕!
(カバー裏面の説明文より)
三河国の植田村の貧乏百姓の子、茂兵衛は、四年前に父を亡くし、十八歳の茂兵衛が家の大黒柱として、病身の母と頭の少しとろい弟の丑松、三人の妹たちを養っていました。
ある日、茂兵衛は、喧嘩のはずみで同じ村の若者倉蔵を殺してしまいました。
村にいられなくなった茂兵衛は、大百姓の五郎右衛門の手配で、弟丑松とともに村を出ることになりました。
「夏目次郎左衛門吉信様だ。岡崎の松平元康様の御家来衆よ……や、この七月に家康様と改名されたそうな。夏目様は、松平家康様の御家来だ」
「はあ」
なんとも藪から棒の話ではあるが、己が窮状を鑑みると、贅沢は言っていられない。
「俺は、侍になるんですか?」
「それは、おまんの器量次第ら。腕っぷしが強く、腹も据わっている。機転も利く。百姓より侍に向いているとワシは思う。初めは足軽か小者扱いだろうが、百姓と違って手柄を立てれば出世ができる。この乱世、手柄の立てどころはゴマンとあるがや」(『三河雑兵心得 足軽仁義』P.30より)
茂兵衛は六栗の領主夏目次郎左衛門に仕え、丑松も岡崎の勝鬘寺の寺男に下男として仕えることになり、二人で村を出ました。
岡崎を目指して夜道を歩いていた二人は、馬にまたがった当世具足を着用した二人の侍に出会い、茂兵衛が愛用していた槍を奪い取られました。
村では喧嘩で後れを取ったことがなかった茂兵衛が、侍の動きについていけなくて殴られて倒され、侍になってもやれると思っていた自信が砕かれました。
茂兵衛の最初の主人となる夏目次郎左衛門は、家康の家臣ながら、一向宗への信心深く一揆側に与していました。
夏目のもとで、足軽としての雑兵稼業を始める茂兵衛の成長が読みどころで、三河の一向一揆側の戦い振りが描かれているのも興味深く、物語世界の虜になりました。
三河雑兵心得 足軽仁義
井原忠政
双葉社 双葉文庫
2020年2月15日第1刷発行
カバーデザイン:高柳雅人
カバーイラストレーション:井筒啓之
●目次
序章 粗暴なり、茂兵衛
第一章 旅立ち
第二章 夏目次郎左衛門
第三章 野場城の籠城戦
第四章 野場、落城す
終章 邂逅
本文292ページ
文庫書き下ろし。
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『三河雑兵心得 足軽仁義』(井原忠政・双葉文庫)(第1作)
『三河雑兵心得 弓組寄騎仁義』(井原忠政・双葉文庫)(第4作)