『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』|秋山香乃、荒山徹、川越宗一、木下昌輝、鈴木英治、早見俊、谷津矢車|PHP研究所
歴史時代小説作家団体「操觚の会(そうこのかい)」に参加する、作家による、歴史時代小説短編集、『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』(PHP研究所)をご恵贈いただきました。
本書は、「操觚の会」に参加している、早見俊さん、川越宗一さん、鈴木英治さん、、荒山徹さん、木下昌輝さん、秋山香乃さん、谷津矢車さんといった、一騎当千の作家たちが、「足利氏」を軸に室町から戦国時代の歴史の一こまを切り取り独自の視点から描いた七話の短編小説で構成されています。
新書『応仁の乱』がベストセラーになって以降、関心が集まっている「足利氏」は、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』でも注目された。
本書は、戦国を語る上で欠かせない「足利氏」をテーマに、7名の歴史時代作家が書き下ろした短篇小説を収録したアンソロジー。
著者は、2020年上半期の直木賞を受賞した川越宗一をはじめ、大人気シリーズ「口入屋用心棒」の著者の鈴木英治、2020年の中山義秀文学賞を受賞した木下昌輝など、ベテランから新進気鋭まで、実力派ばかり。
これまで戦国史を語る上で、メインで書かれることがなかった「足利氏」を軸に、この時代の画期となる出来事を時系列で描いていくことによって、“もう一つの戦国史”が浮かび上がる。
(Amazonの内容紹介より)
永享十二年(1440)三月、七歳の万寿王丸は兄の春王丸、安王丸とともに、鎌倉公方家に仕える忍びのさくらの一族に守られて日光山に逃れていました。
三人の兄弟の父、鎌倉公方足利持氏は、一年前に足利六代将軍義教の命を受けた関東管領上杉憲実との合戦に敗れた末に、嫡男義久とともに切腹させられました。
「若さま、我らの里においでください」
「さくらの里か……日光から遠いのか」
「十一里(約四十三キロメートル)ばかり東にござります。喜連川にある、さくらの里でございます。今の時節。里は桜に彩られておりますぞ」
万寿王丸の目がきらきらと輝いた。
「喜連川の名の由来は、狐の言い伝えにあります。古木に九尾の狐が棲みついていたため、狐川と呼ばれ、これが喜連川に変化したというのでございます。輪が先祖を辿りますのと源義家公の頃に行き着きます」(『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』「第一話 嘉吉の狐――古河公方誕生」P.14より)
万寿王丸は、下総結城城主の結城氏朝のもとに向かう二人の兄たちと別れて、さくらの一族の頭領不二丸に誘われて、喜連川に行くこととなりました。
籤引き将軍で知られる六代義教の時代に起きた嘉吉の乱から、堀越公方滅亡、国府台合戦、川越夜合戦という関東での動乱、そして剣豪将軍十三代義輝弑逆、そして喜連川藩誕生まで、百六十年に及びます。
戦国の古河公方足利家の歴史が、七人の作家によるペンによるタスキリレーによってつながっていきます。
本書は、「操觚の会」と、足利の血脈が受け継がれた喜連川藩のあった栃木県さくら市が企画協力して生まれました。
忍び集団「さくらの一族」が、各編に登場して、七話をつなぐタスキの役割を演じていて、連作小説としての一貫性を与え興趣を深めています。
「操觚の会」とさくら市のコラボ企画の歴史時代小説というと、喜連川藩創設に尽力した二人の姫を描いた、神家正成(かみやまさなり)さんの『さくらと扇』があります。
こちらもおすすめです。
足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー
秋山香乃、荒山徹、川越宗一、木下昌輝、鈴木英治、早見俊、谷津矢車
PHP研究所
2021年1月7日第1版第1刷発行
装丁:泉沢光雄
装丁写真:Yuri_Arcurs/ゲッティイメージス
●目次
第一話 嘉吉の狐――古河公方誕生 早見俊
第二話 清き流れの源へ――堀越公方滅亡 川越宗一
第三話 天の定め――国府台合戦 鈴木英治
第四話 宿縁――河越夜合戦 荒山徹
第五話 螺旋の龍――足利義輝弑逆 木下昌輝
第六話 大禍時――織田信長謀殺 秋山香乃
第七話 凪の世――喜連川藩誕生 谷津矢車
足利家系図/関連年表
喜連川足利氏を訪ねて――栃木県さくら市歴史散歩
本文308ページ
書き下ろし
■Amazon.co.jp
『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』(秋山香乃、荒山徹、川越宗一、木下昌輝、鈴木英治、早見俊、谷津矢車・PHP研究所)
『さくらと扇』(神家正成・徳間書店)