『乱麻 百万石の留守居役(十六)』|上田秀人|講談社文庫
上田秀人さんの時代小説書き下ろしシリーズ、『乱麻 百万石の留守居役(十六)』(講談社文庫)を入手しました。
加賀藩前田家の若き留守居役、瀬能数馬が、岳父で藩の宿老・本多政長から薫陶を受け、各藩留守居役との駆け引きを繰り広げる、人気シリーズの第十六作です。
幕閣では、無役の名門・酒井家の処遇が取り上げられ、江戸に滞留中の加賀藩宿老・本多政長と留守居役の数馬にも影響が及ぶ。本多家に敵対してきた老中・大久保加賀守は遺恨を晴らすべく、配下に密命を下す。加賀の前田家では、政長の嫡男・主殿が、裏でうごめく一党のいぶり出しを図る。
(カバー裏面の説明文より)
本多政長は、将軍綱吉から「いつなりとても目通りを許す」と登城勝手の許可を出されました。綱吉のお気に入りとなった政長に対して、誼を通じるべく各藩の留守居役が接近してきました。
「ただちにその悪弊を止めよ。留守居役は藩のためだけにある。他家の顔色を窺うようなまねをするな。そなたたちは百万石の留守居役なのだ」
本多政長が命じた。
「それは無理でございまする。そのようなまねをすれば、たちまち加賀は孤立してしまいまする」
「孤立、それのどこが困る。孤高でよい」
(『乱麻 百万石の留守居役(十六)』P.56より)
政長は、留守居役が主家がどこであろうとも、その場にいる者のなかでもっとも長くその役にある者が偉いという長年の慣習を改めるように、加賀藩の留守居役たちに命じました。
本多家を恨み敵対してきた老中大久保加賀守は遺恨を晴らすべく、配下に密命を下しました。
一方、政長が留守にしている加賀では、代わりを務める嫡男・政敏に対して、歩き巫女と呼ばれる女忍びを駆使する者が、藩政を混乱させる企てに引き込もうと働きかけていました……。
家康の謀臣本多正信が先祖で「堂々たる隠密」と呼ばれる、五万石の加賀藩筆頭宿老本多政長の存在感が圧倒的で、本シリーズをますます面白くしています。
若くて、剣の腕以外何もないという数馬の良き指南役として、洞察力と熟練の手腕で加賀藩前田家百万石に降りかかる危難を次ぐ次ぎに解決していきます。
加賀本多家初代で政長の父は、本多正信の次子・政重。安部龍太郎さんの『生きて候』にその生涯が描かれています。
また、加納則章さんの『明治零年 サムライたちの天命』には、幕末の本多家の当主本多政均が登場します。
金沢には、加賀本多家の所蔵品や歴史を伝える、加賀本多博物館があるそうで、ぜひ一度訪れてみたいと思います。
乱麻 百万石の留守居役(十六)
上田秀人
講談社 講談社文庫
2020年12月15日第1刷発行
カバー装画:西のぼる
カバーデザイン:多田和博+フィールドワーク
●目次
第一章 前例の弊害
第二章 屏風の裏
第三章 権の走狗
第四章 策の成否
第五章 妄執の崩
本文296ページ
文庫書き下ろし
■Amazon.co.jp
『乱麻 百万石の留守居役(十六)』(上田秀人・講談社文庫)
『生きて候(上)』Kindle版(安部龍太郎・集英社文庫)
『明治零年 サムライたちの天命』(加納則章・エイチアンドアイ)