『古来稀なる大目付 まむしの末裔1』|藤水名子|二見時代小説文庫
藤水名子(ふじみなこ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『古来稀なる大目付 まむしの末裔1』(二見時代小説文庫)を入手しました。
著者は、1991年、『涼州賦』で第4回小説すばる新人賞を受賞してデビュー。中国を舞台にした青春武侠小説や三国志ものの歴史時代小説を多数発表し、2012年ごろから、「剣客奉行 柳生久通」シリーズなどの文庫書き下ろし時代小説を刊行されています。
「大目付になれ」――将軍吉宗の突然の下命に、一瞬声を失う松波三郎兵衛正春だった。蝮と綽名された戦国の梟雄斎藤道三の末裔といわれるが、見た目は若くもすでに古稀を過ぎた身である。しかも吉宗は本気で職務を全うしろと。「悪くないな」――冥土まであと何里の今、三郎兵衛が性根を据え最後の勤めとばかり、大名たちの不正に立ち向かっていく。痛快時代小説の開幕!
(カバー裏の内容紹介より)
本書の主人公は、古稀(数え七十歳)になる、松波筑後守正春、通称三郎兵衛です。
元文元年(1736年)、大岡越前守忠相の後任として江戸南町奉行に就任し、元文四年には大目付に就任している実在の人物。
戦国大名斎藤道三の子、松波政綱の子孫と言われています。
「昨年在職中に急死した石野の代わりじゃ。いつまでも、大目付の席を空けておくわけにはゆかぬ」
「なれど、上様」
「よいか、筑後、余が欲しているのは、殿中の儀礼を司る、お飾りの大目付ではないぞ。諸大名を監察するという、大目付本来の職務を全うできる者だ。そちしかおらぬ」
「それがしの歳をお考えくだされ。それがしとて、他の方々と同じく、芙蓉之間の飾り物にしかなれませぬぞ」
「だがそちは、他の者と違い、忖度というものができぬ」
(『古来稀なる大目付 まむしの末裔1』P.15より)
三郎兵衛は将軍吉宗より、「大目付になれ」と突然に命じられました。
幕府の目の届かぬところで、こそこそと悪事を働く大名家の悪事を暴き、不正を正せと。
そして、目安箱に投書があった、常陸国の小藩・志筑藩本堂家を探れと命じられました……。
志筑藩本堂家は、常陸国新治郡志筑を知行した八千石の小藩ながら、大名格として扱われる旗本交代寄合という、ちょっと興味深い家柄です。
さて、古稀の三郎兵衛ですが、古流柔術の遣い手で鍛えられた体をして、見た目も精悍で五十そこそこにしか見えないという、スーパー爺さんという設定が面白い。
二十四歳になる放蕩盛りの孫・勘九郎とのコンビで、大名家の探索に乗りだします。
蝮の末裔の片りんをいかに見せてくれるのか、興味津々の物語の始まりです。
古来稀なる大目付 まむしの末裔1
藤水名子
二見書房 二見時代小説文庫
2020年12月25日発行
カバーイラスト:安里英晴
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
●目次
序
第一章 大目付拝命
第二章 始動!
第三章 御三家の影
第四章 謀計
第五書 まむしの末裔
本文294ページ
文庫書き下ろし。
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『古来稀なる大目付 まむしの末裔1』(藤水名子・二見時代小説文庫)
『涼州賦』Kindle版(藤水名子・集英社文庫)
『剣客奉行 柳生久通 獅子の目覚め』(藤水名子・二見時代小説文庫)