『長屋道場騒動記(八)迷い熊笑う』|芝村凉也|双葉文庫
芝村凉也(しばむらりょうや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『長屋道場騒動記(八) 迷い熊笑う』(双葉文庫)を入手しました。
“迷い熊”と呼ばれる、心優しき巨躯の剣士。神田弁慶橋の若き剣術道場主、間野生馬が悪を討つ、痛快時代活劇シリーズの第8作にして、完結編となります。
生馬や千葉周作の次男・栄次郎らが笑顔で並んでいる、森豊さんの表紙装画を見て、最終巻への期待が膨らみます。
与惣兵衛とお君の間のわだかまりも消え去り、束の間の平穏を取り戻したかに見えた惠比壽屋。だが、いまだ藩内の訌争に決着がつかぬ十河藩の御国派、御為派、そして引導を渡したはずの三嶽藩までもが新たな策を弄してくる。そんななか、生馬の父源心と、生馬自身にまつわる思わぬ過去が判明。生馬の、そして惠比壽屋父娘の運命は――。心優しき巨躯の剣士「迷い熊」が悪を討つ! 痛快人情活劇シリーズ、ここに堂々完結!!
(カバー裏面の説明文より)
菓子舗の惠比壽屋の主与惣兵衛は、生馬の父源心のために道場を建て、その死後しばらく空き家になっていたものを、生馬の帰国を機に建て直してくれました。
夜盗を撃退したという実績があるにせよ、生馬を居候として住まわせ、見世の用心棒という形で小遣いまで渡して、半年近くたっても弟子一人入門してこない、古流の信抜流の生馬の道場を支えていました。
その惠比壽屋の与惣兵衛とお君の父娘が、後継ぎ問題で十河藩を二分する御国派と御為派と、次期藩主を押し込もうとする三嶽藩の三者の抗争に巻き込まれていきました。
若者は、クソっと悪態をついて仰向けに寝転がる。身分ある侍にはあるまじきだらしのない態度だが、圭吾がそれを咎めることはなかった。
「せっかくこの貧乏藩の窮屈な部屋住みから抜け出せると思ってたのによう、なんでそんなことにんった?」
若者は三嶽藩の四男坊、頴四郎であった。その前に控える男は若草圭吾、頴四郎とともに育てられた乳兄弟であり、唯一無二の側近兼親友である。
(『長屋道場騒動記(八) 迷い熊笑う』P.61より)
生馬と盟友の千葉栄次郎の活躍により、十河藩、そして三嶽藩にはすでに引導を渡したはずでしたが、新たに十河藩へ養子入りを狙っていた三嶽藩のどら若君の頴四郎がお君の前に現れ、思いがけない策を弄してきました……。
悪巧みに長けた、無頼の若君頴四郎が、心優しき巨躯の剣士の前に現れるのが大きな読みどころの一つです。
「迷い熊=間野生馬(まのいくま)」シリーズの最終巻も、波乱に予感させる展開で、引き込まれていきます。
栄次郎やその弟多門四郎も入門を願う、信抜流、生馬の振るう剣技も痛快です。
本書で「迷い熊」はお終いとなり淋しいですが、次回作で、新たなヒーローに出会える日を心待ちにしています。
長屋道場騒動記(八) 迷い熊笑う
芝村凉也
光文社 双葉文庫
2020年10月18日第1刷発行
文庫書き下ろし
カバーデザイン:長田年伸
カバーイラストレーション:森豊
●目次
第一章 御国派再訪
第二章 どら若君
第三章 姫の真相
第四章 秘事発覚
第五章 帰結
本文285ページ
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『長屋道場騒動記(一) 迷い熊帰る』(芝村凉也・双葉文庫)(第1作)
『長屋道場騒動記(二) 迷い熊衛る』(芝村凉也・双葉文庫)(第2作)
『長屋道場騒動記(三) 迷い熊阻む』(芝村凉也・双葉文庫)(第3作)
『長屋道場騒動記(四) 迷い熊猛る』(芝村凉也・双葉文庫)(第4作)
『長屋道場騒動記(五) 迷い熊奔る』(芝村凉也・双葉文庫)(第5作)
『長屋道場騒動記(六) 迷い熊匿す』(芝村凉也・双葉文庫)(第6作)
『長屋道場騒動記(七) 迷い熊繋ぐ』(芝村凉也・双葉文庫)(第7作)
『長屋道場騒動記(八) 迷い熊笑う』(芝村凉也・双葉文庫)(第8作)